文=岡崎優子

8月20日より全国にて公開
©2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

松坂桃李渾身の孤狼ぶり

 2018年度の日本アカデミー賞で最多12部門の優秀賞、4部門の最優秀賞に輝いた『孤狼の血』。主演を務めた役所広司はアジア映画界のアカデミー賞ともいわれるアジア・フィルム・アワードで最優秀主演男優賞を受賞、助演の松坂桃李もキネマ旬報助演男優賞を受賞するなど、『孤狼の血』はこの年の映画賞を席巻、総なめにした。

 コンプライアンスを度外視した強烈なバイオレンス、ひりひりする男たちの生き様は衝撃的で、ヤクザ映画はまだまだこの時代でも十分いけるんだと心強く思った。いや、そんなジャンルの枠を軽く超えた、エンタテインメント作品としての輝きを十二分にはなっている。

 それから3年。待ちに待った続編『孤狼の血 LEVEL2』が今夏公開される。監督は前作と同じく、白石和彌。当初、続編は柚月裕子の小説『孤狼の血』シリーズ三部作の第2作『狂犬の眼』を原作とするとアナウンスされていた。ところが原作から離れ、シリーズ三部作とは異なる完全オリジナル・ストーリーに。映画独自の世界観が生み出された。

 舞台は前作から3年後の呉原市。役所広司が演じた伝説の刑事・大上章吾亡き後、その遺志を引き継いだ松坂桃李演じる日岡秀一のその後が描かれる。

 まず、この3年でいったい何があったの? と思うほどの日岡の変化に驚かされる。髪を短く刈り上げ、身体もひと回り細く絞られた日岡は、飢えた“孤狼”そのものと化していた。ぎょろりとした目は鋭さをさらに増し、今にも噛みつきそうな雰囲気を醸し出している。

 下手に絡んではいけない。大上とはまた違うマル暴刑事としての存在感を放つ。今まで松坂が演じてきたどのキャラクターとも一線を画した、その異様なルックスに、度肝を抜かれた。

 

鈴木亮平演じる上林の狂気

 前作で呉原市を拠点とする暴力団「尾谷組」と、県内最大の暴力団「広島仁正会」の壮絶な抗争劇を裏で収めた日岡は、今や裏社会の顔役として、警察からも暴力団からも一目置かれる存在となっていた。ある意味、日岡の目論見は成功し、広島の暴力団情勢は小康状態と、危ういながらも秩序が保たれる平和が訪れていた。

 そこに現れたのが、鈴木亮平演じる上林成浩である。出所したばかりの彼がまた、史上最悪最凶のモンスターとして描かれる。江口洋介扮する「尾谷組」の一ノ瀬守孝に殺害された、石橋蓮司扮する「広島仁正会」傘下の「五十子会」会長・五十子正平に忠誠を尽くす上林は、その仇を取ろうと日岡に報復を予告する。

 その圧倒的な暴力性、ほとばしる狂気、容赦なく制裁を加えていく様は悪魔というか、破壊王でしかない。服役中に懲罰房に入れた刑務官の妹を探し出し惨殺。その手口もえぐすぎる。

 さらにその矛先はバブル期を迎え、経済活動に没頭する「広島仁正会」「二代目五十子会」へと向かう。その凄惨な制裁を施す徹底ぶりは圧巻だった。上林を持て余す古参のトップたちはもはや対抗する牙を失い、上林の制裁をただただ受けるしかない。上林が組を牛耳るのは時間の問題だった。

全力をかけて演じる村上虹郎と鈴木亮平の圧倒的熱量がひりひりとさせる

 そして、村上虹郎演じるチンタこと近田幸太の存在があまりにも痛すぎる。日岡のスパイとなって「広島仁正会」に潜り込むのだが、“モンスター”上林を前に、悲惨な目に遭わされるのは目に見えている。かなり早い段階から、胸が締め付けられる思いでチンタの行く末を憂えた。

 そして、徐々に追いつめられるチンタの恐怖、歯を食いしばり踏ん張る健気さに震えた。恐らくどのキャラクターよりも純粋で孤独で、未来のために生きようともがく彼の姿は、日岡とも上林とも違う、哀しい目をした“孤狼”に見える。そんなチンタをじわじわと、捕まえたネズミをいたぶるように楽しむ上林が怖すぎる。果たして、日岡はそんなチンタを救うことができるのか。

チンタの姉・真緒を演じた西野七瀬もまた体当たりの逞しい役どころを演じる

 鈴木亮平はインタビューで「監督からよく『上林、悪いなぁ』と言われていましたが、『悪いのは日岡ですよ』と返していました」と笑った。確かに、「上林の行動はすべて己の正義にのっとった行動だった」と鈴木が語るように、極楽非道ではあるが、彼の中でその行動はすべて正当化されているのだろう。だからこそブレない。笑顔で狂気を演じる鈴木のヒールっぷりは見事としか言いようがなかった。

 

愛を感じるクライマックスの死闘

 そしてクライマックス。上林と日岡が直接対決を迎える。小康状態にあった呉原の街に、上林は自らの組を構え、復讐のために尾谷組に突撃する。その狼煙を上げるべく、尾谷組にダンプカーが突っ込む画に圧倒される。この時を待っていた! 上林組の若い衆の雄たけびが嬉々と夜の街に響く。

 そして郊外での死闘。そこに至るまでも、上林と日岡のカーアクションがあったりと、なんとも贅沢な見せ場が用意される。このクライマックスの二人の死闘シーンの撮影には、実に3日間を要したという。白石監督は「上林と日岡のランデブーだと思って撮っていた」と振り返る。「まさに愛しか感じない」とも。

 暗闇の中で延々と殴り合う二人の死闘はまさにブロマンスの真骨頂! 萌えた。普通、殴り合いのシーンが続くと単調になるのだが、この場面では二人がこの死闘を楽しんでいるようにも見え、妙な色っぽさを感じた。監督の言う「愛」が昇華しているからなのだろう。

 いずれ勝負がつくことは百も承知だったが、最高の見せどころで終わって欲しいと思った。恐らく観客が望むであろうラストは、清々しさすらある。まさに、映画史に残るバトルだったのではと思う。

 もちろん、見せ場は随所にちりばめられている。映像一つにしても、ネオンが妖しく光る夜の街、雨に濡れたアスファルトなどが艶っぽく印象深い。

定年を前に日岡の相棒となった中村梅雀演じる瀬島孝之との関係も気になるところ

 3年前の抗争への関与を中村獅童演じるいけ好かない新聞記者・高坂にスクープされ窮地に陥る日岡など、今回の日岡は「負け戦」だと、松坂は当初から監督に言われていたのだそう。そう考えると、弱みを握られ日岡を警察組織から排除したいと考える、滝藤賢一演じる、捜査一課管理官の嵯峨大輔がどう反撃に出るかも気になるところだ。

 その負けっぷりをどう演じきるかが、本作における松坂桃李の一つの新たな挑戦だった。時折無防備に見せる日岡の笑顔は、上林の笑顔とは対照的でもある。

 その昔、実写版『ガッチャマン』(13)で初共演した二人が8年後、こんな素晴らしい再会をするとは夢にも思わなかった。熱い男たちの夏は、まさにこれから開幕する。

斎藤工、早乙女太一ら新たに参加した俳優陣は嬉々として白石組に参加。脇を固める