また、温室効果ガスの削減効果をなるべく正確にモニタリングする必要があります。「各主体の言い値を信じる」という形になってしまうと、「我々は十分な努力をしている」といった宣伝文句が飛び交う割には、現実の地球環境への効果が乏しいという結果になりかねません。そのためにも、大量のデータを効率的な分析によるモニタリングが強く要請されます。このようなモニタリングは、各主体がそれぞれ持っている排出権と、現実の温室効果ガスの排出量が見合っているのかを検証する上でも必要です。
さらに、排出権の信頼性を確保するために、排出権の発生源である「枠(キャップ)」や「温室効果ガス削減量」と個々の排出権とをしっかりと紐付ける取り組みも大事になります。
これらを実現させる上で、ブロックチェーンや分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology, DLT)を排出権取引に活用していくことが、一つの選択肢として考えられます。日本でも、“ezzomo”(イツモ)と呼ばれる、ブロックチェーンを用いるプラットフォームの導入が検討されています。
温室効果ガスの削減は、数多くのデータ処理を伴う複雑な作業です。単にCO2を削減すれば良いというわけではありません。削減のコストや削減効果のモニタリングコストはなるべく小さくし、その一方で経済活動は続けられるようにしなければなりません。
さらに、地球規模での温室効果ガス削減効果を高めるには、日本などの技術を海外で活用しながら、削減余地の大きい途上国や新興国で温室効果ガスを削減し、その効果を分け合うといったアレンジも重要になります。そのためには、排出権取引を透明でオープンな制度とし、幅広い主体が不公平感なく参加できるものにすることが求められます。
これらのデータ活用や分析、制度の透明性確保などにとって、IT技術の活用は大きなカギとなります。この面でも、日本が主導的役割を果たしていくことに期待したいと思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。