排出権デリバティブ

 このような排出権取引には、さまざまな派生商品(デリバティブ)を考えることも可能です。

 例えば、「CO2を減らすために植林をする」という活動が、現実のCO2削減に結び付くには時間がかかります。そこで、植林によって生み出されるはずの将来の排出権を先物として取引することが考えられます。このようなデリバティブ取引が可能になれば、将来のCO2削減に向けた現時点での投資活動をファイナンスできる余地が広がります。

 一方で、環境問題に付き物なのが「グリーンウォッシュ」(Green Washing)の問題です。排出権のデリバティブ取引についても、「地球に優しい」といった宣伝文句と相まって、実体のない詐欺的な取引に悪用されてしまっては困りますし、そのような取引が横行すれば、脱炭素化に向けた金融取引全体への信認にも響くことになりかねません。

排出権取引とIT

 このような性質を持つ排出権取引では、他の取引以上に、IT技術を積極的に活用していくことが求められます。

 まず、言うまでもなく、排出権そのものを創り出す効果を持つ「枠(キャップ)」について、データを活用した適切な設定を行っていくことが重要となります。

「枠(キャップ)」の設定において、確立された最良の方法というものはありません。具体的な手法として、各国や各企業の過去の温室効果ガス排出量を基準とする方法(グランドファザリング)がしばしば使われますが、この方法には、これまで脱炭素にかんばって取り組んできた主体ほど損をすることになりかねないという問題もあります。一方、企業の性質や生産物に応じて「枠(キャップ)」を決めていくのは、大変なコストがかかります。こうした中では、情報技術とデータを活用しながら、より望ましい「枠(キャップ)」の設定方法を模索していくしかありません。