(今井 紫:電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門コンサルティングマネージャー)

 これまでの連載「『DX調査2020』で見えたDXの課題と克服の鍵」では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の課題克服のポイントや、顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)を起点としたDX推進方法について紹介してきました。第3回となる今回は、DXを進める上で不可欠な要素である「データ」に焦点をあて、データ活用を進めるためのポイントを紹介します。

【バックナンバー】
・第1回「『人材不足、組織の壁』DXの障害に打ち勝つ方法」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64334
・第2回「DXの起点、顧客に『良質な体験』の提供を」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64905

データ利活用の現状と課題

 メールアドレスや購入履歴をもとに、メールマガジンの送信や商品のレコメンドを行うなど、これまでも個人情報をはじめとする生活者に関するデータは企業によって収集され、企業活動に活用されてきました。そして近年、デジタル技術の革新やクラウド等の仮想環境(サイバー空間)の拡大、また、プライベートDMP等をはじめとする自社によるデータ収集手段の普及は、取得・活用しうるデータの幅をこれまで以上に急速に広げています。

 例えば、ウェブサイトの閲覧ログやそれと紐づくCookie情報、スマートフォンの端末識別子、位置情報といった行動履歴を主とするデータから、スマートウォッチから得られる心拍数や睡眠のデータ、センサーやカメラから得られる画像データ、自動車の走行データなどのIoTデバイスから得られるデータまで、実に多岐に渡ります。

 また、一言で「データ利活用」といっても、これらデータの活用の在り方はアイデアの数だけあると言えます。購買データを活用した受発注最適化や販促施策のパーソナライズ化、CRM(顧客管理)の向上、ダッシュボードツールを用いた自社のビジネス構造の可視化といった業績改善のためのデータ活用や、新規事業開発や既存サービスのアップデートといった事業開発のためのデータ活用。他にも医療データによる病気の早期発見や自動車の走行データに基づく災害時の通行可能経路情報の提供といった社会課題解決のためのデータ活用などが挙げられます。

 このように、データの利活用は、個人の趣味嗜好やニーズにより的確にアプローチし最適なサービス提供を可能にさせるだけでなく、社会をより良くするためにも非常に有効です。

 当社(電通デジタル)では、「日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査」を2017年より毎年実施しており、こうしたデータ利活用の現状について調査しています。2019年に実施した同調査(注1)では、「DX成果あり」と回答した企業の半数以上はデータを積極的に活用していますが、「DX成果なし」と回答した企業のうちデータ活用できている割合はおよそ2割にとどまりました。

Q.貴社の自社顧客のデータ活用について、最も当てはまるものを選択してください。(ひとつだけ)」の項目と、「Q.貴社におけるデジタルトランスフォーメーションの取り組みの成果として、下記の項目において最も合うものをそれぞれ1つ選択してください。(それぞれ一つだけ)」の項目をクロス集計して算出
(※)DX成果の有無に関して、「非常に成果が出ている」「成果が出ている」の回答を「成果有り」、「成果が出ているといえない」「全く成果が出ていない」の回答を「成果なし」として集計。その中間にあたる回答についてはデータに含まない。

(注1)2019年12月13日「『70%が着手』と本格化進む日本企業のDX成果創出のカギは経営トップのコミットメント 電通デジタル、日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2019年版を発表