アニメーション版から飛躍した実写版の魅力
アニメーション版との違いを指摘するファンも多い。ミュージカル要素がなくなったこと、コメディー・リリーフの守護竜ムーシューが登場しないことなどなど。ファンの意見までもがニュースとなるのだから、それだけ「ムーラン」に対する思いが深いということなのだろう。個人的には実写ならではの描写が多い方がより楽しめるのだが。
村を出たムーランは性別を偽り、男ばかりの訓練所で仲間と友情を深めながら技を磨いていく。アニメーション版ではシャン隊長に淡い恋心を抱いていたが、本作では仲間の兵士に変更。個人的にはドニー・イェン演じる隊長との恋愛模様を見たかったが、隊長一人で敵を全滅させられるのでは?と思えるほど白眉の武術を披露するドニーとの絡みはそれだけでおなかがいっぱいになりそう。仲間と入浴することができず、体臭が匂うとからかわれ、一人水浴びをしているところに仲間の兵士が現れ緊張するムーラン。やはり物語的にはそのくらいの恋愛描写が愛らしく、程よかった。
そしていざ出陣。ムーランの奇策によって隊は勝利を収めるが、真の女の姿で戦うことを決意したムーランを隊長たちは受け入れず、軍規違反だと追放する。だが、先の戦いは敵の策略で、本隊は皇都へ向かっていると気づいたムーランは再び隊へ戻り進言。先頭に立ち、仲間たちと共に捕らわれた皇帝を奪還する作戦を実行する。
ここでのキーパーソンはシェンニャンというキャラクターだ。ムーランと同じく、戦士としての才能に恵まれながら軍隊に受け入れられなかった彼女が、ムーランにシンパシーを感じつつ戦い、生き方を指南する。さすがコン・リー演じるシェンニャンは妖艶で、さすがの存在感だった。それだけに、彼女の幕引きにもっと劇的なドラマが欲しかったと思ってしまうのはファンゆえか。
そして、皇帝演じたジェット・リーには最初、気が付かなかった。貫録を出すためなのか、ドニー・イェンと『HERO』で戦ったあの雄姿は見る影もなく驚いた。ファンとしてはキレのあるアクションを見せてほしかったが、役どころだから仕方ない。そんな抑えた演技も、「ディズニーが中国文化に光を当てることが重要なのだと娘たちに諭された」からと、一度は辞退したこの役を引き受けたのだと言う。
ほかにもアニメーション版でムーランの声を演じたミンナ・ウェンがカメオで出演したり、訓練シーンの水バケツが『少林寺三十六房』(77)のオマージュだったりと、本作は配信で何度でも見られるだけに、隠れた面白さを見つけるのも一興だろう。
コロナ禍の影響による配信での公開、政治がらみの問題で話題が先行したのは至極残念だが、結果的に時代に先駆け配信された作品として、2020年を象徴する映画になったことは間違いなさそうだ。