「顧客」×「個客」発想で進化するビームス流マーケティング

アフターデジタル時代に進化するマーケティング最前線 Vol.3

JBpress/2020.4.22

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甲斐:他にも統合という観点からオムニチャネル戦略の特徴を教えてください。

矢嶋:苦労しながらも実現できたという点では「在庫のオムニチャネル化」です。これは物流部門と連携しながら、自社ECサイトの在庫と店頭在庫を統合して一元管理しています。それにより、お客様はどの店舗・チャネルからでも商品を購入したり、受け取ったり、取り寄せをしたりすることが可能になりました。

 たとえば、お客様が職場に近い店舗にご来店されて、それも非常に時間がない中で、ショッピングをされたとします。自分の気に入った商品があったとしても、その店舗に気に入った色や、自分に合うサイズがなかった場合、そこで終わってしまっては非常に残念な顧客体験になってしまいます。

 その状態で完結させずに、その場にない色やサイズの洋服を、お会計はその場で済ませて、商品は後日、自宅や自宅近くの店舗で受け取るといったことも可能にしました。もちろん、一元化された商品在庫はオンラインのお客様にも提供可能です。

 オンラインもオフラインも関係なく、最適なサービスを実現するためには、まず在庫が一元的に可視化され、スムーズな配送を行えるインフラの整備が非常に重要だと私たちは考え、この仕組みを整えました。

甲斐:良いですね。私もそんな状況によくなりますが、「試着したけれどサイズがない、あるいは色違いがほしい。決済は済ませておくので、商品は自宅に届けてほしい」といったケースは実際に増えていますか?

矢嶋:そうですね。お客様が店頭にお越しいただく理由の一つには、やはりまだサイズの不安があるんだと思います。加えて商品の手触りや着心地といったところをしっかり確かめたいといったニーズもあります。

 それらを確かめてご納得いただいた後は、できるだけスムーズにお客様のお手元に商品をお届けしたいという思いが仕組みづくりの根底にはありました。

 その逆のパターンもあります。お店にふらっと行っても、なかなか自分に合うものに出合う確率は低い。でも、時間を無駄にはしたくないので、事前にオンライン上で商品を選定し、色とサイズも決めていただいたうえで、お客様の最寄りの店舗に試着商品を用意しておくサービスも導入しましたし、取り置きもご利用いただいています。

「スタッフをメディア化」し、情報発信に注力

甲斐:「在庫のオムニチャネル化」はOMO(Online Merges with Offline)をサービスとして実現させるための必須の取り組みとも言えるように思いますが、他にもビームスさんの特徴はありますか?

矢嶋:「店舗スタッフをメディア化」し、情報発信を各スタッフから行っている点です。スタッフのメディア化については、昨今はインフルエンサーによるソーシャルを使ったマーケティングも話題ですが、私たちは、店頭のスタッフこそが弊社の商品を最も理解していると考えているので、スタッフがしっかり自分の目線でお客様に商品情報を発信していくことで、店頭での「一対一」の接客の中でご説明していることが、インターネットを介して「一対多」に広がっていくと考えています。

 現在、スタイリングのコンテンツ、フォトログ(商品画像)、ブログ、動画コンテンツという4つのサービスを提供しており、スタッフはスマートフォンですべてのコンテンツを投稿することが可能になっています。
 

 スタッフにとっては直接自分が投稿したものに対して、「いいね」ボタンを押されたり、自分自身のフォロワーが増えたりといったことが、リアルタイムで可視化されますし、仮に自分が情報発信したことが、ECサイトでのお買い物につながれば、数字にも反映されますから、働く上でのモチベーションにもつながっていると思います。

甲斐:なるほど。これはたとえばインスタグラムなどをただ使うだけでなく、お客様との接点をスタッフを媒介として強化していくという点で優れていると思います。

矢嶋:そうですね。さきほども説明しましたとおり、店頭のスタッフは本当に洋服とライフスタイルでお客様を幸せにしたいという熱意をもっています。

 お客様がそのスタッフ個人に共感し彼らがどんな考えやライフスタイル、そして洋服を着ているか、という点に興味を持ち、そして彼らの発信する情報でビームスを好きになってくれることが重要だと考えています。それがデジタルでの発信、そして実際の店頭でのスタッフとの会話により醸成されていくことを期待しています。

甲斐:デジタルで気に入ったコーディネートをしているスタッフの方に、旅行先の店舗で会話しに行き、そこでも買い物するといったことが可能なんですね。

矢嶋:そうですね。すでに可能ですし、このコミュニティ形成がビームスの財産になっていければより固い絆で私たちとお客様が結ばれていくように思います。そもそも私自身が店頭スタッフを経験していることから、お客様と接するスタッフの熱意をなんとかメディアにのせて広げたいという想いもありました。