長らく不況が叫ばれるアパレル業界において、業績堅調なセレクトショップ「ビームス」とはいえ、デジタル化の進展とは無縁ではいられたわけでは決してない。
業界に先駆けてECサイトを立ち上げ、紆余曲折を経ながらオムニチャネル化を推進、オンラインとオフライン(リアル店舗)との融合をけん引してきた。今回は、同社の事業企画本部コミュニティデザイン部 部長、矢嶋正明氏にデジタル時代とその先のマーケティングの在り方、捉え方について伺いました(聞き手は、株式会社日本HPで長年マーケティングを率いてきた甲斐博一)。
株式会社ビームス
事業企画本部 コミュニティデザイン部 部長
矢嶋 正明氏
株式会社日本HP
パーソナルシステムズ事業統括
コマーシャルマーケティング部 部長
甲斐 博一
実店舗とECサイト、2つの顧客データを統合
甲斐博一(以下、甲斐):改めまして、ビームスにおける矢嶋様の役割・ミッション、現在の仕事内容などについて教えてください。
矢嶋正明氏(以下、矢嶋):ビームスのEC事業の立ち上げに携わった経緯から、私の名刺には過去14年間「EC」の文字が常に入っていたのですが、2019年9月に組織変更があり、私の役割も新たなフェーズに入りました。
販売チャネルとしてのECに留まることなく、店頭における販売・接客からECまでを含めて横断的に顧客体験を考えていく必要があるということで、コミュニティデザインというところに私の立ち位置も変化しました。
現在のミッションをひと言で申し上げると、「個客視点の経営を推進していく」です。
現在は、ロイヤルカスタマーという意味での「顧客」と、パーソナルな一人ひとりという形の「個客」の両方を見ていく時代だと考えており、そういう方向性の下、全社で事業を推進しているところです。
甲斐:2005年にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築やオムニチャネル化に取り組んでこられていますが、どのようなプロセスで進めてきましたか。
矢嶋:お客様の会員情報については、当初はリアル店舗のハウスカードの会員データと、自社ECサイトで登録いただいた顧客データが、それぞれ別々に管理されていた時代が長く続いていました。
弊社では2016年の段階で2つのデータを統合し、顧客データベースを一元化しました。データの構造がまったく異なる2つのものを統合するに当たっては、それなりの苦労がありましたし、お客様への周知、ご案内についても非常に気を使いながら取り組んできました。
甲斐:ECを別チャネルとして立ち上げてこられたところがぶつかる問題ですね。統合には苦労が多かったことかと思います。リアル店舗と自社ECサイトの2つの顧客データが統合されたことで、どのようなデータ活用やサービスが可能になりましたか。
矢嶋:リアル店舗で買い物をしても、自社ECサイトで買い物をしても、お客様との接点、それぞれのデータは一元化されていますから、弊社との間で行っていただいたお買い物内容に関しては、どの場所で購入いただいたかに関わらずすべて個人単位で把握できます。
まずはそれを把握したうえで、個人に向けてパーソナライズされた形のアクションということで、お客様とのコミュニケーションに活用しています。たとえば、店頭である商品をお買い上げいただいたら、その商品でコーディネートをしたスタイリング画像を、パーソナライズしたメールとして送付することなど、いろいろ行っています。
甲斐:取材の話があったので、実は、事前にビームスさんのショップに行って買い物をしてきたんです。担当してくださったスタッフの方が、ビームスの成り立ちからブランドパーパスまで商品説明の中で伝えようとされていたのには感激しました。
ビームスさんらしさについて聞きたいと思っていたのですが、特別な質問をしたわけではなく、会話の中で自然とそれが出てきたことが非常に心地よかったです。
矢嶋:ありがとうございます。弊社には、洋服が大好きで、生活にこだわりをもつスタッフが非常に多く集まっています。スタッフ自らが洋服だけでなくライフスタイル全般を楽しむという企業カルチャーと、そんなビームスと関わることで、お客様にはより豊かな生活を送っていただきたいという観点から、甲斐さんをご対応したスタッフも、自分の思いや体験を接客を通じてお伝えしたい、お客様の満足度に貢献したいと考えながら店頭に立っているんだと思います。