製造領域での自動化がデジタル変革の鍵に

――変革の過程では反発もあったのではないでしょうか。

小松氏 最初は従業員にわかってもらえませんでした。会社を変えるのに、7,8年はかかりましたね。辛い時期もありましたが、社長として従業員がプライドを持って仕事をやれる会社にしたかったのです。

 従業員が地域のマーケティングセミナーの講師を務めたり、マーケティングのコンサルタントを呼んで社内向けに勉強会を開いたりして、今ではマーケティングをやらないと生き残れないという感じにはなっています。

――デジタルトランスフォーメーションの難しさはどんなところにあるのでしょうか。
小松氏 DX・デジタルトランスフォーメーションには色々な面があります。前述のMAからEmailの送信やDMデータのプリンターへの自動送信などシナリオに基づいたCRM的な運用や、印刷機までのデータの自動配信などはかなり方向性は見えていて、実際の運用までにそれほど時間はかからないと思います。

 OMOやアフターデジタルと言われる時代です。マーケティングの方法も劇的に進化していくと思います。そこに新しい印刷会社の存在価値が改めて見直されるのでは無いでしょうか。

 ただし、印刷会社の工程には印刷後の加工工程があり、ここをDX化することは、現状なかなか難しいですね。しかし、One to Oneの印刷物を間違いなく、効率的に作っていくには、加工部門も含んだ自動化が必須になると思います。

 協働ロボットも他業界では活躍していますが、紙を扱うとなると、現状ロボティックスのサプライヤーのみなさんはどうしても逃げ腰になってしまいます。しかし、印刷業界の生産現場におけるデジタルトランスフォーメーションの実現に向けた「Think Smart Factory」が昨秋京都で開催されるなど、取り組みが動き出しています。生き残りのためには、積極的に取り組んでいかなければならない事だと思います。

 可変印刷物への流れは、インバウンドの増加や、消費増税対策としてのキャッシュレス推進でQRコード決済が推奨されたりしたことで、状況は大きく変わってきました。

 スマートフォンの急激な普及もあり、ユニークQRコードなどからスマホに繋がるデジタル化の流れはより加速すると思います。弊社は昨年カメラ検査装置とともに、KODAKのインクジェットプリンター(プロスパー)を4台搭載したUV印刷機を導入、スマホに繋がるデジタル化の製品をより多くのお客様に提供できる様になりました。

 製造のみでなく、データとデジタル技術を活用して、顧客のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスを変革していく事はより重要になってきます。その流れを作っていければ、印刷の価値はより高まっていくのではないでしょうか。

先に目指す姿を定めて得意技を磨いていく

――印刷業界はこれからどう変わって行くと思いますか。

小松氏 去年はSNSやLINEとの連動などを提案させていただきましたが、今年はYouTubeのような映像との組み合わせも進むと思います。当社でもYouTubeチャンネルの配信や、コンサルティング業務も始めました。

 形はこれからも変化して行くと思いますが、弊社の仕事は“売れる仕組みのお手伝い”です。印刷が強みですからそこにある程度こだわるようにしていますが、そこにこだわりすぎると未来が見えてきません。

 大事なのはお客様が何を求めているのかということです。紙やWebやSNSなど手段は色々ありますが、お客様の目的によってツールは変わってきます。一通り最低限は扱えるスキルを持って、目的に合わせて提供するツールを変えて行くことが重要です。

 勿論、すべて自前でやるには無理があります。そこはアライアンスも積極的に組んで行くべきでしょう。お互いの得意技を関連付けてストーリーを作り、それをお客様にご提案し、PDCAを回していく事が弊社の役割になって行きます。

 低価格で印刷物を作れる会社も必要ですが、ネットプリントの会社は既に多数あります。でもタイムリーに、求められているものを提供できる会社はもっともっと必要になると思っています。

――今後印刷会社としてはどんな戦略を取るべきなのでしょうか。

小松氏 PSP(プリントサービスプロバイダー)とか、MSP(マーケティングサービスプロバイダー)とか言われる概念があります。どちらに立つ会社なのかのスタンスを明確にするべきでしょうね。

 どんなサービスを目指すのかという延長線上に製造もあるわけです。時々のトレンドや技術は、常に変化すると思いますが、常に新しい技術やサービスを提案して、お客様の販売促進の支援を行う事が弊社の存在意義だと思っています。

 すべての会社が同じ方向を見る時代では無いと思います。それぞれの会社の思いが形になったサービスや技術を磨いていく事が大切なのではないでしょうか。

 これからも積極的に色々なチャレンジを続けて行きたいですね。