SCSKは2011年10月、住商情報システム(SCS)とCSKが経営統合して誕生した。製造・流通・金融・通信業をはじめ、幅広い業界に向けてITサービスを提供している。単体での社員数は約7300人、そのうち約5800人がIT人材(技術職、営業職)だ。同社では、これらの社員が「いつでも、どこでも働ける新しい働き方」の実践・定着を目指し、「どこでもWORK」を推進している。
そこで今回は同社で「どこでもWORK」の推進を中心とした働き方改革に取り組む人事グループ人事厚生部の山口 功氏、南 政克氏、村田 宜則氏に話を聞いた。
早期から残業時間の削減などに取り組み、実績を重ねる
SCSKの働き方改革への取り組みは早い。まだ「働き方改革」という言葉が一般化する前から残業時間の削減などに取り組んできた。
同社人事グループ 人事厚生部 労務課長の南政克氏は次のように紹介する。「2013年には『スマートワーク・チャレンジ20』という取り組みを進めてきました。『20』という数字に示されているように、月間平均残業時間20時間未満、年次有給休暇取得日数20日(100%取得に該当)を目指したものです」
その実績にも注目したい。有給休暇取得日数は15.3日(取得率78.4%)から18.5日(取得率94.4%)に上昇と、目標にわずかに届かなかったがほぼ達成のレベル、残業時間は26.1時間から17.7時間へと大幅に削減された。
「この成果をもとに、2015年には『健康わくわくマイレージ』という取り組みを行いました。日常的な健康行動と健康診断結果を評価することで、健康維持・増進を支援するものです」(南氏)。
この取り組みでも、2014年度から2018年度にかけて、ウオーキング実施率が34%から74%に上昇、喫煙率は36%から16%に減少するなど、着実に成果を出している。
「これらを受け、当社の働き方改革の第3の施策として2016年にスタートしたのが『どこでもWORK』です。その名のとおり、『いつでも、どこでも働ける』新しい働き方へのチャレンジです。推進の背景には、当社や当社の社員を取り巻く環境の変化があります。社会的な観点では、少子高齢化による労働力人口が減少し、要介護者も増加しています。社員の観点では、ワーク・ライフ・バランスの確保がさらに重要になっています。また、企業の観点では、人材の確保、BCP(事業継続計画)への対応、生産性の向上などが求められています」と南氏は説明する。
とはいうものの、IT企業の場合、上司や部下、同僚が目の前にいて膝を突き合わせながらプロジェクトを推進していくというやり方になじみがある。
それに対して、人事グループ人事厚生部長の山口功氏は、「これらの前提を覆すには、単に旗印として掲げるだけでなく、具体的な施策と、管理職などの上司、さらには経営トップも含め、意識を変えるための取り組みも必要でした」と振り返る。
かけ声だけでなく、定着のための具体的な施策も実施したという。「『リモートワーク定着手当』を支給するとともに、上司の率先垂範を促す『組織チャレンジ』の仕組みも取り入れました」(山口氏)。
「定着手当」は実施回数に応じた手当を支給したという。さらに、「組織チャレンジ」は、管理職の実施回数に応じて倍額が支給された。逆に言えば、上司が実践しないと部下の手当が減ることから、文字どおり自らが率先して動いた管理職が多く、そのことにより全社への普及が加速したという。
「場所にとらわれない柔軟な働き方」を目指し、3つの施策を三位一体で推進
南氏は次のように話す。「『どこでもWORK』では、『場所にとらわれない柔軟な働き方』を目指し、3つの施策を三位一体で推進しました。『リモートワーク』、『ペーパーダイエット』、『フレキシブルオフィス』です」
「リモートワーク」は、「自席」を前提としない働き方だ。ICTを活用することでリモート環境でも自席と同様に働くことができ、月に2、3回程度の在宅・サテライト勤務を目指す。
「ペーパーダイエット」は「紙」を前提としない働き方だ。印刷量、保管量を共に50%削減し、ペーパーレス会議の推進と定着化を図る。
「フレキシブルオフィス」は、「生産的・効率的」なオフィスで、多様な働き方スペース、フレックスアドレス、個人ロッカーなどを導入する。
3つの施策の中でも注目すべきは「ペーパーダイエット」だろう。紙の削減がなぜ働き方改革につながるのか。
その問いに山口氏は次のように答える。「情報を紙で共有すると、紙のある場所に集まらなければならなくなります。それではリモートワークができません。そこで当社ではまず取締役会でペーパーレス化を進めました。さらに、全ての会議室にプロジェクターを設置し、社員のノートパソコンへの移行も進めました」
同社ではさらに「紙でもらわない、渡さない/もらっても捨てる/捨てても怒らない」という「ペーパーダイエット3原則」を定め、書類についても電子化して外部倉庫へ移した。また、そのために、全社で「一斉廃棄キャンペーン」まで実施したというから念が入っている。
「ペーパーダイエット」の実績を見ると、印刷量の削減は31%減と、目標の50%までは道半ばだが、保管量については、保管用のキャビネットが半減した。さらに、袖机を撤去し個人ロッカーに移行したことにより、それまで140センチ幅で利用していたデスクが120センチ幅で住むようになりスペースに余裕が生まれた。空いたスペースに、ミーティングデスクや集中席などの多様なエリアを設置し、オフィス内での働き方も変化したという。