「働き方改革」の必要性が叫ばれて久しい。大企業から中小企業まで、多くの企業が働き方改革に取り組む一方で、その進捗や成果には大きな差が出てきている。働き方改革に成功している企業とそうでない企業にはどのような違いがあるのだろうか。内閣官房「働き方改革実現会議」の有識者議員を務め、企業向けに働き方改革の講演なども数多く行っている相模女子大学客員教授の白河桃子氏に聞いた。
昭和の成功体験を引きずっていては働き方改革は実現しない
――白河さんは働き方改革に関する企業の取り組み事例を数多く取材され、書籍なども著されています。進捗や成果をどのように見ていますか。
白河桃子氏(以下、白河):政府が進める働き方改革関連法案には3つの柱がありますが、そのうちの一つが残業時間の上限規制の強化です。残業は「1カ月45時間」「年間360時間」で、特例がある場合でも「年間720時間」を超えると罰則になります。大企業では2019年4月から施行されており、中小企業でも2020年4月から施行されます。
こういった大きな変化もあって、多くの企業が「働き方改革」に関心を持つようになっています。ただ、その取り組み姿勢には温度差があります。広義の働き方改革に積極的に取り組もうとしている企業もあれば、狭義の働き方改革、すなわち「法律で決まったことだから、やらなければならない」と後ろ向きな企業です。当然、成果についても明暗が分かれます。
――広義の働き方改革ができているのはどのような企業でしょうか。また、狭義の働き方改革にとどまっている企業は、どのような点に理由があるのでしょうか。
白河:広義の働き方改革ができているような先進的な企業は、決して「働き方改革がブームだから」「やらなければ罰則があるから」と取り組んでいるわけではありません。ビジネス環境が変化している中で、ビジネスモデルそのものを見つめ直し、古い働き方では対応できないと捉え、積極的に改革を行おうとしているのです。一方で、狭義に働き方改革を捉えている企業は、依然として昭和の高度経済成長期の成功体験を引きずっています。
例えば、かつてテレビは作れば作るほど売れました。他社に勝つためには、体力のある男性たちが長時間残業してテレビをたくさん生産すればするほど売れ、給料も上がり昇格もできました。ただし、現在の若者はそもそもテレビを見なくなり、スマートフォンで動画などのコンテンツを楽しんでいます。一方で一人暮らしの高齢者が増え、彼らはテレビとともに生活しています。このような多様化の中で、より良い画像の8Kテレビをお金を出して買いたいという層がどれほどいるでしょう。逆に言えば、8Kのテレビからスマートフォンまで、デバイスが多様化する中で、どのようなコンテンツが求められ、新しいビジネスにつながるかを考える必要があるのです。