味の素が目指す究極のテレワークとは

いつでも、どこでも、誰でも、自由に働ける「どこでもオフィス」

沢井 圭吾/2019.10.8

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 「どこでもオフィス」をきっかけに
ペーパーレス化も大幅に進む

 浅川氏は「働き方改革を推進するためには経営の強いコミットメントが不可欠です」と話す。そのために同社では経営陣が率先して取り組みを行っている。経営会議もサテライトオフィスで行うほどだ。

 ちなみに、同社では製造ラインを動かす工場があるが、そこでも「どこでもオフィス」が進められているという。隈部氏は、「生産計画の立案や報告書の作成などは工場の中でなくてもできます。また、安定稼働している状態であればIoTなどの活用で遠隔監視も可能です」と話す。

 実践にあたっては「工場でのテレワーク導入は不可能」と決めつけるのではなく、「どうすれば『どこでもオフィス』が可能になるか」と議論し合ったという。「工場の現場でなければできない仕事とそうでない仕事を洗い出し、『これならまとめて在宅でもできる』と割り振っていったようです」(隈部氏)。

 浅川氏は「『どこでもオフィス』の導入をきっかけに、ペーパーレス化も大幅に進んでいる。特徴的なのは、会社から『いくら減らせ』と指示されたから減っているのではなく、『そのほうが便利だから』と各部門で自律的に取り組みが広がっていることです」と紹介する。

 同社のサテライトオフィスは現在、社外に140拠点、社内に11拠点で、社宅にも2拠点がある。この他、社内はフリーアドレスで、異なる拠点の人が自由に席を使うことができる。さらに、自宅や、出張先のホテル、カフェなどでも“勤務”できる。

 むろん、これらに紙の資料を持参するのは現実的ではない。必要な資料は高度なセキュリティで守られたクラウド上に保存されており、業務で使うノートPCやスマートフォンを紛失したり盗難に遭ったりしても外部に漏れることはない。

「営業部門などでは依然としてファクス受注も残っています。そこでOCR(光学式文字読み取り装置)などを活用して、ペーパーレス化を進めているようです。今は、各部門がこれらの取り組みを独自に進めているところですが、今後は成功事例の情報共有も全社横断的に進めたいと考えています」(隈部氏)。

量から質へ、テレワークや
働き方改革をさらに進化させる

「最大週4日ものサテライトオフィス化」という国内に例の少ない取り組みを率先して実現している味の素だが、隈部氏は「単に『家でやりなさい』というだけでできるものではありません。例えば当社の場合、コアタイムのないスーパーフレックスタイム制を導入したことが利用率の向上を実現したと考えています」と補足する。テレワークを掛け声倒れにしないためには、人事制度やインフラ整備など他の施策との連動が重要になりそうだ。

 ITツールについても隈部氏は「『どこでもオフィス』と言いながら、持ち運びが苦痛になるようなデバイスでは意味がありません。女性でも持ち運びが楽な軽量でバッテリー駆動が長いノートPCを導入しています。カメラ内蔵でWeb会議にもどこからでも参加できます」と話す。

「どこでもオフィス」の実現にはセキュリティの確保が必須になるが、前述したように、同社では自由なテレワークとセキュリティ対策は一対だと考え、多くの側面から対策を行っている。全ノートPCにプライバシーフィルターを配布するなど、意外とおろそかにしやすいショルダーハック対策も実施。また、PC稼働時間、メール通信ログ、インターネット・アクセスログも取得しており、これらはサービス残業の防止にも役立っているという。

 取り組みの成果は着実に表れている。例えば、2016年度に1916時間だった一人当たりの平均総実労働時間は、2017年度には1842時間、2018年度には1820時間と大幅に短縮。浅川氏は「目標である1800時間をほぼ達成したことから、今後はさらに質の向上を目指していきたいと考えています。生産性や働きがいについて、エビデンス(根拠)に基づく目標を掲げ、向上を図っていきます」と話す。

味の素の一人当たり総実労働時間の推移。2016年度は1916時間だったが、2018年度には1820時間にまで短縮。
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 働きがいを実感している従業員の割合(グループ全体)を2020年度に80%まで高めるのも目標の一つだ。隈部氏はさらに将来を見据え、「配偶者の転勤や介護などによって引っ越さざるを得なくなる社員もいます。そこで、『どこでもキャリア』といった、どこの拠点に移ってもそのままの仕事を続けられるような仕組みができないか検討しているところです」と展望を語る。せっかく入社した社員に長く勤めてもらうという点でも効果がありそうだ。同社の先進的な取り組みは、テレワークの定着に悩む多くの企業の参考になるだろう。