国内オープンイノベーションは新たな段階へ

 2018年12月、リクルートマネジメントソリューションズは、従業員規模300名以上の企業に在籍する新規事業開発や新技術開発、新商品・サービス開発に携わる22~65歳の会社員334名を対象に「オープン・イノベーションに関する実態調査」を実施した。この調査レポートによると、業界水準より高い営業利益成長率を維持できている企業のうち、業界水準を超える数のイノベーションを生み出してきたと答えた回答者群が71.3%を占め、イノベーション創出数が業界水準と同程度以下の回答者群では24.9%と大きな差が生じている。

イノベーションの創出数と営業利益成長率の関係(画像はプレスリリースより引用)

 業界水準未満の回答者群に絞ると、業界平均よりも高い営業利益成長率を維持できた企業はわずか7.4%。短期間で多くのイノベーション創出が求められるようになっていく中で、旧来の「自前主義」を廃し、より効率的なイノベーション創出が見込めるオープン化戦略を進める企業が増えてきているのは必然と言えるだろう。

 また同調査では、担当する新規開発において、オープン化を推進する方針があると答えた全体の64.4%のうち、約半数となる56.4%が社外連携は「総じて順調」(11.9%)、あるいは「どちらかといえば順調」(44.5%)と回答。連携が上手くいっていない回答者群と比較すると、探索活動等の面で違いが見られる。連携先についても、順調群は大学・研究所、ITベンチャー以外の異業種・同業他社とも積極的に連携を行っていることが分かる。

連携している外部パートナー(画像はプレスリリースより引用)

 オープンイノベーションというと、いまだに「スタートアップと大企業の協業」というイメージも根強い。しかし、自社資源との相性や、共通の目的意識を持てるかどうかといった点を踏まえて探すのなら、大企業の協業先候補はスタートアップだけではないし、逆もまた然りだ。

 オープンイノベーションを成功させるには、最適な協業先を見つけるために探索範囲を広げることも重要だが、まずは自社の弱みや強み、課題を明確にしておく必要がある。最近は「既存事業を深掘りする」ための技術を持つ協業相手を探す大手企業も増えてきた。これは、かつて未知の技術を持つスタートアップを探していた頃と比べ、大手企業の「自己分析」が進んでいることの表れとも考えられる。

 大手企業にとって、ある種対外的な「見栄え重視」の側面も強かった国内のオープンイノベーション。現在は、先行企業の躍進によってその有用性や必然性が広がりつつあり、より実用的な段階へとシフトしている最中なのだろう。

 総務省がSDGsの達成やSociety 5.0の実現に向けた方策を取りまとめ、2019年5月31日に公表した「ICTグローバル戦略」でも、柱となる6つの戦略の1つに「オープンイノベーション戦略」が掲げられている。オープンイノベーションという概念は、「共有」や「連携」が鍵となるこれからの社会において、いずれは当たり前のものになっていくだろう。イノベーションテックコンソーシアムをはじめ、日本を牽引する大手企業の取り組みに対する注目度は、今後ますます高まっていくはずだ。

 企業や大学、政府や個人がシームレスに連携し、各自のパフォーマンスを最大限に活かすことで、様々な社会課題の解決につながる新たな価値を創出していける社会。遠く思える理想郷は、私たちが思うよりずっと近いところにあるのかもしれない。