大手企業による最新オープンイノベーション事例

 2019年5月27日にCrewwが発表した「上場企業から見たスタートアップ企業に関する意識調査」の結果によると、調査対象となった従業員規模1000名以上の上場企業の役職者(会社経営者、役員、部長、次長、課長)のうち、スタートアップの存在を認知している企業の72.5%が、オープンイノベーションがトレンドとなりつつあることを「知っている」と回答している。

 さらに、スタートアップとオープンイノベーションに取り組むことに対して、全体の77.5%(「とても興味がある」24.5%と「興味がある」53.0%の合計)が興味を持っていると回答。既にスタートアップとの取引経験がある会社に対象を絞ると、実に94.0%(「とても興味がある」47.0%と「興味がある」47.0%の合計)がオープンイノベーションに興味を示していることが明らかになった。

Q. あなたは、スタートアップ企業とオープンイノベーションに取り組むことに興味がありますか。【単数回答】(画像はプレスリリースより引用)

 加えて、スタートアップ企業と協業したことのある企業の役職者のうち、46.6%が協業によって何らかの成果を得られたと回答しており、それ以外の企業も前向きな感想を抱いていることが見て取れる。

Q. スタートアップ企業と協業したことのある方にお聞きします。協業した感想について、最もあてはまるものと、経験を通して得られたと思うものをお答えください。【単数回答/複数回答】(画像はプレスリリースより引用)

 オープンイノベーションのような新規事業創出のための取り組みは、「成果が分かり辛く、上層部の理解を得ることが難しい」といわれることも多い。しかし調査結果を見る限り、大企業の役職者の間にも、その有用性は着実に浸透していっているようだ。

 イノベーション創出の王道を探求するイノベーションテックコンソーシアムへの参加に留まらず、各大手企業のオープンイノベーションに向けた取り組み事例は急速に増加している。ここではオープンイノベーションに積極的な大企業や、その最新動向を抑えておこう。

●JR東日本(東日本旅客鉄道)グループ

 2018年2月にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「JR東日本スタートアップ」を設立して以来、スタートアップとの「三位一体」で多くの共創事業を展開。

 同グループが有する経営資源とスタートアップの革新的なアイデアや技術をつなぎ、イノベーションの社会実装を目指す「JR東日本スタートアッププログラム」は、2019年2月に内閣府主催の「第1回 日本オープンイノベーション大賞」で経済産業大臣賞を受賞するなど、スピード感のある取り組みで多くの関心を集めている。

 最近では、駅構内のデッドスペースの有効活用を図るため、前述のプログラムの2017年度採択企業であるCOUNTERWORKSと共同開発した、ロッカーサイズの新型ポップアップストア「POP-UP BOX」の実証実験を2019年6月4日から30日まで実施している。

ポップアップストア「POP-UP BOX」のイメージ(画像はプレスリリースより引用)

●ANAホールディングス
 戦略的なIT活用に取り組む企業として、経済産業省と東京証券取引所が共同で発表している「攻めのIT経営銘柄2019」に2年連続で選定された。加えて、“デジタル時代を先導する企業”としても評価されており、今年度より新設された「DXグランプリ」にも選ばれている。

 選定に際しては、ベンチャーキャピタルやスタートアップ、産学官連携などといった共創パートナーの拡大を意欲的に進めている点や、国内外約50の企業・研究機関とのオープンイノベーションを通じて推進している「ANA AVATAR」プロジェクトのような先進的な取り組みも高く評価された。

 また、4月15日より運用されている同グループの総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」には、6月よりオープンイノベーション拠点として「ANA Innovation Garage」の新設が予定されている。

●KDDI
 アクセラレータープログラム「KDDI∞Labo」や、コーポレートベンチャーファンド「KDDI Open Innovation Fund」、オープンイノベーションによるビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」など、オープンイノベーションによる価値を創出するための仕組みを備える。

 イノベーションリーダーズサミット実行委員会が2018年3月8日に発表した「イノベーティブ大企業ランキング2018」でも1位を獲得しており、スタートアップからも「オープンイノベーションに積極的な大企業」として認知されていることが分かる。

 2019年5月31日には、スマートグラスを手掛ける「nreal」と戦略的パートナーシップを締結したことを発表。翌月5日にはナビタイムジャパンと連携し、MaaS領域の取り組みを推進していくことも発表しており、共創による新たな価値創出に向け、幅広い取り組みを行っている。

●日本電気(NEC)
 AIやIoT領域での「AI・IoTビジネス共創コミュニティ」や、製造業領域における「NEC ものづくり共創プログラム」といった取り組みを通じて、パートナー企業との共創によるイノベーションを促進している。さらに2018年7月には米カリフォルニアに新会社「NEC X」を設立し、シリコンバレーのスタートアップ・エコシステムとの連携による新規事業創出を推進している。

 同社は近年、ICT技術を活用した高度な社会インフラの提供を通じて、様々な社会課題の解決を目指す「社会ソリューション事業」に注力。その一環として2019年2月8日、本社ビル内に完全予約制の共創空間「NEC Future Creation Hub」をオープンした。

 テクノロジーとビジネスの融合を「体感」し、「対話」を重ねることで、協創相手の課題とその先にある社会課題の解決にどう貢献できるかを考察。加えて、それぞれの課題に適したチームで「NEC共創プログラム」を進めていくためのリアルな「場」を用意することで、共創事業の加速を図っている。

 今回取り上げた企業・取り組みはほんの一部。意欲的な大手企業は、オープンイノベーションをスムーズに行うための組織変革を経た後、並行して様々な共創事業を立ち上げ、絶えず課題解決のための取り組みを進めているようだ。