日本企業にとっての魅力と官民連携のコツ
前述の通り、MDECは政府が設定したゴールを達成するために様々な形でスタートアップ支援を行っている。「イノベーションを生むこと」を最優先課題とする大企業が多い中、そうした企業とイノベーションの種を持つスタートアップとを「結ぶ」ことがMDECにとっても重要な役割であり目的だと語るチューン氏。それを他ならぬマレーシアで行う利点については、地理的な側面が大きいという。
「地理的に、マレーシアは東南アジア市場への窓口としての側面を持っています。それだけでなく、マレーシアはイスラム教の国なので、インドやパキスタン、バングラデシュを含む南アジアや中東への接続も容易です。マレーシアから東南アジアや南アジア、そして中東へビジネスを拡大していきたいと考えている企業にとって、マレーシアは非常にアドバンテージのある場所ではないかと考えています」
中東地域との長期に渡るパートナーシップはイスラム教をベースに行なわれているため、特に同地域への進出を考えている企業にとって、マレーシアは重要な足掛かりとなりそうだ。また、チューン氏はMDECによる「MTEP(マレーシア技術起業家プログラム)」についても教えてくれた。
MTEPは、日本からの投資家や技術分野の起業家の参入を支援することを目的につくられた制度。ASEAN市場開拓を目指す起業家に対して1~5年間のマレーシア滞在と、同国でのオペレーション基盤を構築するサポートを行っており、2017年は200以上の応募の中から50の起業家にビザが提供された。
「外国からの投資や企業の参入を支援していく上で、かつての『マルチメディア・スーパーコリドー』政策で焦点とされていたのは、外国から技術者の方々をマレーシアに呼んで、その技術や知識を地元の人々に伝えてくれることでした。それが近年では、スタートアップや技術系の企業がマレーシア市場に参入し、マレーシアにASEANでの拠点を作っていく傾向にあります。しかし、マレーシアではどの起業にも属さない起業家の方々に雇用パスを提供するのが難しい状況が長らく続いていて、それが起業家の方々のマレーシア参入を阻んでいました。MTEPがそうした状況を打破したことで、スタートアップが参入しやすい環境づくりが進んでいます」
応募企業は、マレーシア国外での経歴や経験年数が審査され、目的や実績に応じた年数のビザが与えられる。チューン氏は、こうした制度ができたことや、先述の通りASEANや中東市場へ進出していくための足掛かりにできることから、スタートアップ企業のマレーシア参入が増加しているのではないかと分析する。
また、起業のしやすい環境やイノベーションが生まれやすい土壌をつくるには、官民の連携が欠かせない。マレーシアの政府機関であるMDECが考える、官民連携を成功させるコツとは何なのだろうか? MDECでは以下の4つの観点から、官民連携の取り組みを行っているという。
①機会の創出
政府側から協業の機会をつくっていき、その機会が民間の企業にもたらす利点を伝えていくことが、連携を促進していく一つの要因となる。
②コラボレーションしやすい環境を作る
「官から民へ」に限らず、全てのステークホルダーが協力しやすいプラットフォームや環境をつくることで、デジタル化を促進。
③世界で求められる人材を作る
世界各国の大企業に必要とされる人材を認知し、マレーシアで育成する。
④民間企業のニーズを理解し、それに合わせた施策を行う
情報通信技術の領域は日々ニーズが変化していく。常に最新のニーズを把握し、それに合わせて様々な施策を行っていく。
常に上記4ポイントを念頭に置き、政府としてイニチアチブを取っていくことが、官民連携を促進させる要因になるとチューン氏は語る。