きっかけは中国政府の厳格な入国管理

 新型コロナウイルスの感染が拡大する前、アップルは米国から毎月数百人の技術者を中国に派遣し、同社製品を手がけるEMS企業の業務を監督していた。だが、感染が拡大すると、中国政府の厳格な入国管理の下、それまでのように自由に行き来できなくなった。

 中国政府によるビザの発給制限や入国時の隔離措置などを懸念し、多くの企業が、出張や駐在を目的とする社員の中国渡航を躊躇するようになった。

 アップルはライブ配信などの技術を駆使してこれに対処した。例えば、カリフォルニア州の本社スタッフが、工場の製造現場で起きていることをリモートで追跡できるようにした。タブレット端末「iPad」を利用して現地と連絡を取り合うようにしたほか、AR(拡張現実)技術を使い、本社の技術者が工場内の問題を把握できるようにした。

 しかし、対面でなければできない業務も多く、サプライヤー拠点の米国進出が求められるようになった。

中国依存脱却で米やインド、ベトナムへ

 一方で、バイデン米大統領は22年8月、米国内における半導体の生産や研究開発に520億ドル(約7兆5200億円)超の補助金を投じる法案に署名し、法を成立させた。

 補助金は米国内で半導体の新工場を建設する企業に支給され、米企業のほか外国企業も対象になる。こうした米政府の動きも、東アジアのサプライヤーが米拠点の役割を強化する理由だと、関係者は話している。

 こうした動きはサプライチェーン(供給網)のより広範な最新動向の一環だとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。アップルはサプライヤーに対し、中国以外の拠点で生産を拡大するよう要請している。これを受け、生産拠点の一部をインドやベトナムなどに移管する動きが出ている。