2000年代に開発がスタートした「柏の葉スマートシティ」。秋葉原からつくばまでを結ぶつくばエクスプレスの中間点、都心から25km圏内に位置するこの街で、公・民・学の連携組織、柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)などにより行われる先進的な試みが、現在も各方面から注目を集めている。

 当初から柏の葉の街づくりに中心的に携わってきた三井不動産は、いかなるビジョンを持って取り組んでいるのだろうか。そこで、三井不動産 柏の葉街づくり推進部 事業グループ長 吉崎典孝氏に、街づくりにおける同社の役割と実践、最新の試み、DXへの取り組み方などについて聞いた。

三井不動産 柏の葉街づくり推進部 事業グループ長 吉崎典孝氏

「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーションする」

 先進的な取り組みを行ってきた柏の葉スマートシティでは、2020年11月より、「柏の葉データプラットフォーム」の稼働をスタートさせている。柏の葉データプラットフォームは、堅固なセキュリティと円滑なデータ連携機能、個人情報にまつわる同意情報管理機能を有するデータプラットフォームであり、これを利用し、生活にまつわる多様なデータをかけ合わせることで、市民の生活に多くのメリットをもたらすことができる。

 例えば、A社のサービスが、健康診断のデータと日々の食事やバイタルデータを管理するアプリであり、B社のサービスが、健康診断結果から将来の生活習慣病リスクを算出するアルゴリズムを有するものだったとする。これらを掛け合わせて利用すれば、将来の生活習慣病リスクに基づいた、食事指導をアドバイスすることが可能となる。しかしA社が持つ顧客データをB社に連携するためには、個人情報保護法に基づく利用者の同意が必要だ。そこで、A社とB社が個社で連携システムを開発するかたちではなく、会社間でデータ連携するために必要となる「データ連携機能」と「個人情報の第三者連携同意情報を管理する機能」をプラットフォームに持たせた。

 近年、グループ長期経営方針「VISION2025」において「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」することを方針の一つに掲げている三井不動産は、こうしたデジタルプラットフォームの提供事業をどのように捉えているのだろうか。

 「不動産業とデータプラットフォームを提供する仕事は、大変よく似ています。弊社は商業施設『ららぽーと』などを管理・運営していますが、顧客層に合った商品を提供されている店舗様に入居いただくことにしています。例えば、子育て世代のお客様が多くいらっしゃる街では、ベビー用品の企業様にテナントに入っていただくわけです。実は弊社はデジタルインフラの提供を、デジタル世界における不動産業だと捉えています。A社とB社にデジタルインフラである柏の葉データプラットフォームにテナントとして加わっていただき、テナント企業には仕事をする上で必要となる機能を、生活者には利便を提供します」(吉崎氏)

 柏の葉データプラットフォームにより、A社とB社の提供するサービス・企業としての存在意義は高まり、市民は健康な生活を送ることができる。同社は、一連の事業を通じて企業を支援することで、市民社会を豊かなものにする事業を展開しているのだ。

柏の葉データプラットフォームを介したデータ活用の実際(図表提供:三井不動産株式会社)
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