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 15年後に生き残れるのは、どのような自動車メーカーなのか? 脱炭素化、AI普及など、世界が「ニューノーマル」(新常態)に突入し、ガソリンエンジン車主体の安定した収益構造を維持できなくなった企業が考えるべき新たな戦略とは? シティグループ証券などで自動車産業のアナリストを長年務めてきた松島憲之氏が、産業構造の大転換、そして日本と世界の自動車メーカーの、生き残りをかけた最新のビジネスモデルや技術戦略を解説する。

 第6回は、欧州で進行するバリューチェーンの変革と、EV化で進むサプライヤーの「逆支配体制」について解説する。 

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年7月4日)※内容は掲載当時のもの

ガソリン車は「すり合わせ」がノウハウとなっている垂直統合構造が特徴

 ガソリン車とEVは構造が全く異なるため、生産手法には革新が必要だという話を以前に述べた(第2回参照)。EVの部品調達も同様で、調達手法も革新が必要になる。

 ガソリン車の部品点数は2万点から3万点に及ぶが、EVでは部品点数が大幅に減少する。その最大の理由は部品点数が最も多いガソリンエンジンが、電気モーターを中心とした単純なシステムに置き換わるからである。さらに、ガソリンエンジンがなくなるため、燃料タンク等の燃料系、点火プラグ等の燃焼系、オイルポンプ等の潤滑系、マフラー等の排気系など、かなりの部品が不要になる。

 また、ガソリンエンジン車には、エンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンションなどをおのおの制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)が100前後搭載されているが、EVでは個々の電子制御ユニットが大幅に減少し統合化される。

 ガソリンエンジン車では、このように膨大な数の部品を使用するエンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンションなどのモジュールでアンダーボディーが構成されるが、おのおののモジュールの性能が高くても、全体を統合した時にアンダーボディーの性能が必ずしも高いという結果にはならない。

 さらに、シート、インストルメントパネル(インパネ)、ハンドルなどの運転機構で構成されるアッパーボディーが加わり、ガソリンエンジン車が完成するわけだが、クルマ全体の性能を高めるにはそれぞれのモジュールについての性能を高め、バランスを取る「すり合わせ」が必要になる。

 例えば、ガソリンエンジン車の場合、エンジン、サスペンション、ボディーといったモジュールを統合した時のトータルの性能が乗り心地に影響する。そのため、個々のモジュールの性能や品質だけを高めたり、各モジュールを単に組み合わせたりするだけでは乗り心地は良くはならない。

 この問題解消のために自動車業界では、各モジュールが搭載されたときにクルマの乗り心地が最も良くなるように自動車メーカーと部品サプライヤーとの間ですり合わせを繰り返し、モジュール同士に調整を加えながら組み合わせることで性能を高めていく開発手法を長年採用してきた。このすり合わせの技術こそが、クルマの乗り心地を改善するために極めて重要な鍵であり、自動車メーカーの最大の知的財産と言っても過言ではない。