フォルクスワーゲンは走りの質を妥協したか?

 では、ID.ポロがスペース効率とコストだけを重視した「安っぽいクルマ」だったかといえば、そうとも限らない。それどころか、走りの質は驚くほど高かった。

 2026年4月に予定される正式発表前とあってボディーにはカモフラージュが施され、インテリアにもカバーがかけられた状態だったが、それでもID.ポロはどんな荒れ地を走ってもボディーがビクともせず、不快な振動は見事に遮断されていた。それでいて乗り心地も快適という、フォルクスワーゲンの伝統的な価値がそのまま息づいていたのだ。そして車内の静粛性も、コンパクトカーとしては異例に高かった。

 ハンドリングも正確そのもの。しかも、コーナリング時のロール(ボディーの傾き)が従来のフォルクスワーゲンの標準から比べると小さいので、ワインディングロードも機敏に駆け抜けることができた。

 心配されたトラクション性能に関しては、トラクションが抜けやすい上り坂で強引にスロットルペダルを踏み込んでも前輪がスリップすることなく、その直前で見事に制御されているように思えた。この辺は、基本レイアウトを工夫することで一定のトラクション性能を確保したうえで、それでも不足した際にはトラクションコントロールを利かせてクルマが不安定になるのを回避していると推察される。ちなみに電気モーターのレスポンスはエンジンに比べて格段に速いため、トラクションコントロールをエンジンよりも精緻に働かせることが可能とされている。

 なお、今回の試乗では明らかにならなかった内外装のクォリティについて、去る9月にミュンヘンで開催された自動車ショー“IAA”で発表されたID.ポロの兄弟車、ID.クロス・コンセプトを取材した経験からいえば、センスのいいファブリックを多用したインテリアはひと昔ほどのフォルクスワーゲン製品さえ凌ぐほどクォリティ感が高いだけでなく、オーガニックな色遣いもセンスがよく、「高品質だが事務機器的で冷たい」と評価されてきたドイツ車のインテリアとは一線を画すモノ。これなら、デザイン性で定評があるイタリア車やフランス車と競り合ってもいい勝負をするだろう。

あくまでコンセプトモデルではあるものの、ナチュラルでクリーンなID.クロス・コンセプトのインテリア

 また、幅広いラインナップを揃えることもID.ポロの特徴のひとつで、スポーティなID.ポロGTI(これもフォルクスワーゲンにとっては伝統的なネーミングといえるもの)を筆頭に、今回試乗した標準グレード(モーター出力:211ps/バッテリー容量:52kWh)にくわえてリン酸鉄系リチウムイオンバッテリーを搭載したエントリーグレード(モーター出力:116〜135ps/37kWh)も設定される予定。とりわけリン酸鉄系バッテリー搭載グレードは、航続距離が三元系リチウムイオンバッテリーを積む標準グレードに比べて短くなるものの、ヨーロッパでの車両価格は2万5000ユーロ(約450万円)を切る見通し。日本円に換算すると高価だが、実はこれ、同クラスのヨーロッパ製コンパクトEVとしては最低レベルに位置するもので、フォルクスワーゲンがクォリティ面だけでなく価格面でもライバルメーカーを打ち破ろうとする姿勢が強く感じられる。

ID.ポロGTIはゴルフGTIから50年目のGTIとして2026年夏に公開が予定されている。後述のスペック表の226PSのモデルがGTIに相当する

 いずれにしても、これでフォルクスワーゲンが混迷期を抜け出し、ヨーロッパの自動車メーカーとして再びコンパクトカークラスのトップに返り咲こうとしているのは明らか。往年のフォルクスワーゲン・ファンにとって、これが極めて嬉しいニュースであることは間違いないだろう。