過去に何度もコンセプトモデルが発表されてきた“現代版Type2”の量産型が、ようやく日本にも導入された。ただし価格は1000万円近くするので立派な高級車でもある

現状日本のフォルクスワーゲン唯一の電動ミニバンでもある

幼少期の頃、父親から「クルマを売った」と聞かされ、ショックで号泣した記憶があります。それがフォルクスワーゲンType2、いわゆるワーゲンバスでした。もちろん、クルマの性能的なことなどまったくわからない年齢でしたが、そのなんとも愛らしい格好に、きっと友達のような親近感を抱いていたんだと思います。そんなワーゲンバスのオマージュとも言うべきモデルが誕生しました。フォルクスワーゲンID.Buzz(アイディーバズ)です。

右がアイコニックなワーゲンバスことフォルクスワーゲン Type2のT1

 前後のオーバーハングが短く、フロントフェイスには大きなVWのロゴを配するなど、ID.Buzzには随所にワーゲンバスを想起させるデザインが見られるいっぽうで、現時点の日本市場においては、多人数が乗車できるミニバンタイプで唯一の電気自動車でもあります。

写真の標準仕様は2-2-2、ロングホイールベース仕様は2-3-2の座席レイアウトとなる。3列目シートは脱着可能なので、ラゲッジスペースの拡大も可能

リヤにモーターを置いた後輪駆動の駆動形式は、奇しくもリヤにエンジンを置いたType2と同じで、往年の名車を最新技術で蘇らせたと言ってもいいかもしれません。参考までに、フォルクスワーゲン「Type2」はワーゲンバスですが、「Type1」はいわゆるビートルのこと。ワーゲンバスはビートルのプラットフォームを流用して開発されたので、エンジンの搭載位置もビートルと同じリヤというわけです。

標準仕様(右)とロングホイールベース仕様(左)があり、装備も後者のほうが充実している。でも、標準仕様で“アップグレードパッケージ”と呼ばれるオプションを選ぶと、ロングホイールベース仕様とほぼ同等の装備となる。

使い勝手は良好

 日本には“ID.Buzz Pro”と“ID.Buzz Pro Long Wheelbase”のふたつの仕様が用意されています。車名の通り両車の違いはホイールベース、そして乗車定員とバッテリーの容量です。標準仕様は2990mmのホイールベースで6人乗り、バッテリー容量は84kWh、ロングホイールベース仕様は3240mmのホイールベースで7人乗り、バッテリー容量は91kWhです。満充電での最大航続距離は前者が524km、後者が554kmと公表されています。駆動用モーターとパワースペックは両車とも共通で、286ps/560Nmを発生します。

最大航続距離は標準仕様で524km、ロングホイールベース仕様で554km。150kWの急速充電器にも対応している。新車で購入すると、最長1年間はフォルクスワーゲングループ(VW、アウディ、ポルシェ)の正規ディーラーでの充電が時間無制限で無料

 ID.Buzzの全長は5m弱、全幅は2m弱、全高は1.9m強あるので、実車を目の当たりにするとそれなりのサイズとボリュームが感じられますが、見る人の表情を柔らかくして和ませる佇まいも持ち合わせています。信号待ちの際に、おそらくこのクルマについて話しているであろう通行人のほとんどの方が、笑みを浮かべていたのが印象的でした。両側のスライドドアとリヤのハッチゲートはいずれも電動開閉式なので使い勝手は良好です。

 運転席に乗り込むと、アップライトな着座姿勢による視界の広がりがなんとも気持ちよく、インテリアは機能的かつシンプルでスッキリとした雰囲気に包まれています。ステアイングの奥にあるメーターパネルは液晶ディスプレイで、ほとんどの装備や機能はセンターのタッチ式ディスプレイを介して使う仕組みです。電気自動車なので床がフラットなだけでなく、前席の足元にパワートレインが干渉してこないため、助手席とのウォークスルーも可能。収納スペースもふんだんに用意されていて、多人数の長距離移動もこれなら難なく快適にこなせるでしょう。