走りにも不足はない

 ステアリングの右側にあるウインカーレバータイプのシフトノブを、上下方向ではなく回転方向に動かすと「D」に入って、ID.Buzzはまさに音もなく静々と動き出します。車両重量は標準仕様で2550kg、ロングホイールベース仕様で2720kgもあるのに、運転中は重さがほとんど気にならず、標準仕様はむしろちょっと軽快に感じるほど。これは、アクセルペダルとステアリングの操作に対してクルマがすぐに素直に反応してくれるからで、少なくともひとり乗車ではパワー不足も応答遅れも皆無でした。この印象は市街地でも高速道路でも山道でも大きく変わることはありません。個人的には、標準仕様のほうがよりダイレクト感があって好印象でしたが、実際にはロングホイールベース仕様のほうが売れているそうです。

写真はロングホイールベースではないID. Buzz Pro。ボディサイズや車両重量から受ける印象と異なり、ID.Buzzはとても軽快感のある走りを披露する。286ps/560Nmのパワーにまったく不満はない。タイヤサイズは標準仕様が19インチ、ロングホイールベース仕様が20インチ。

 標準仕様で888万9000円、ロングホイールベース仕様で997万9000円という価格は誰でも簡単に手が出せるレンジではなく、日本ではフォルクスワーゲンの中でもっとも高価なモデルになってしまいました。でも、価格や電気自動車であることをいったん度外視しても、ID.Buzzは1台のミニバンとして優れた動的性能を有しているだけでなく、デザインや装備面も含めた商品力にも長けていることは確かです。

 そしてやっぱり、唯一無二のそのフレンドリーなフロントマスクが最高です。特に国産ミニバンの迫力あるフロントマスクが苦手な自分なんかは、ID.Buzzの顔を見ただけでホッとしてしまいます。「ミニバンの顔は大きく凄みがないとダメなんです」と話していた某国産メーカーのデザイナーは、このクルマを見て何を思うのでしょうか。