目白大学経営学部准教授 高辻成彦氏(撮影:冨田望)
コーポレートガバナンス・コードの改訂や東京証券取引所(東証)による要請などによって、企業に求められる情報開示の基準は年々高度化している。情報開示を経営に生かすためには、どのような視点が必要なのか。2025年6月に著書『資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンス』(日本能率協会マネジメントセンター)を出版した目白大学経営学部准教授の高辻成彦氏に、東証要請の本質や資本コスト経営の取り組み方について聞いた。
要請以上の「踏み込んだ対応」こそ差別化となる
――著書『資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンス』の冒頭では、ここ数年でコーポレートガバナンスの考え方や構造が変化していると述べています。具体的にどのような変化が見られるのでしょうか。
高辻成彦氏(以下敬称略) 従来、任意開示であるIR(投資家向け広報)を強化することが、投資家へ魅力を伝える差別化要因になっていました。そして、その手段として財務情報と非財務情報を合わせた「統合報告書」の開示項目を強化する、というアプローチが王道といえます。
しかし、ここ10年ほどは毎年のように政府、または東京証券取引所(東証)による制度改正がなされています。そのため上場企業各社としては「任意開示項目の強化」よりも「制度改正の情報開示対応の強化」の方が、投資を呼び込む上での差別化要因になっているのです。従来のような「任意開示のみの強化」から「義務的な開示より一歩踏み込んだ強化」へと変わってきている、といえるのではないでしょうか。
例えば、2021年6月にはコーポレートガバナンス・コードの2回目の改定がありましたが、このときには取締役のスキルを可視化する「スキル・マトリックス」の開示が要請されました。これは基本的に取締役のスキルを開示すれば十分、という意味合いです。
しかし今は、開示するスキルの定義を作成したり、将来の取締役候補である執行役員のスキルも開示したりと、東証要請で求められている内容以上の開示をすることが経営の透明性をアピールする上で差別化要因になってきています。







