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BtoB企業のマーケティング支援に30年以上携わる庭山一郎氏は、成熟した日本企業の成長停滞を打破する鍵として「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)」を挙げる。特定の重要顧客と最良の関係を築き、収益を最大化する全社的戦略だ。「既存顧客×既存商材」の成長鈍化が進む中、日本企業にABMが根付きにくい背景と、成功に不可欠な経営視点とは何か。庭山氏が解説する。
重要顧客と最高の関係を築くABM
BtoB企業のマーケティングを30年以上サポートしている経験から、社歴が20年以上、売り上げ300億円以上の企業なら、実施すべきマーケティングはABM(アカウント・ベースド・マーケティング)一択だと私は考えています。正しく設計・実施されたABMは確実に効果が出て、事業の成長に貢献するのです。
『法人営業は新規を追うな』
これは2025年に日経BPから出版された私の8冊目の本のタイトルです。「受けを狙ったキャッチーなタイトル」と思われた方が多かったようですが、実は私の偽らざる本音であり、日ごろ顧客にも伝えていることなのです。
社歴20年以上、中堅以上の多くの日本企業は、私には“宝の山”の上に立ちながら、わざわざ双眼鏡で遠くの宝を探しているように見えます。とりわけその傾向が強い、巨大な宝の山脈の上に立って探索しているのが社歴40年以上・売り上げ500億円以上の「エンタープライズBtoB」と呼ばれる企業です。費用やリソースの10分の1でも使って足元を掘れば、驚くような宝が見つかるのに、それに気付いていないのです。
大切にすべきなのは足元の既存の優良顧客です。欧米のマーケティング先進国の企業がそれに気付いたのが2010年ごろでした。グーグル検索のトレンドでも「ABM」が上昇し始めたのです。
その後も、米国や欧州で開催されるBtoBマーケティングのカンファレンスやセミナーで「ABM」という言葉を聞くことが増えました。ABM専門のアナリストファームやコンサルティングファーム、ABM専用のツールベンダーも登場し、今では欧米のエンタープライズBtoBのマーケティングは、ABM一色と言ってもよいくらいです。






