ライター 戸部田誠氏(撮影:冨田望)ライター 戸部田誠氏(撮影:冨田望)

「週刊少年ジャンプ」(以下、「少年ジャンプ」)の“読者ファースト”の目線は「少年ジャンプ+」(以下、「ジャンプ+」)のアプリにも一貫している――。累計ダウンロード数3000万を突破したデジタルマンガ誌「ジャンプ+」の人気の秘密についてこう語るのは、ライターの戸部田誠氏だ。2025年5月に著書『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』(集英社)を出版した戸部田氏に、進化を続ける「ジャンプ+」のすごさ、集英社が他の出版社に先駆けてデジタル化を進めることができた要因について話を聞いた。

「ジャンプ+」が読者ファーストを貫く理由

――著書『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』では、「ジャンプ+」が「初回全話無料」というユニークな収益モデルを採用していることに触れています。戸部田さんから見て、このモデルの面白さはどのような部分にあると思いますか。

戸部田誠氏(以下敬称略) 取材の中で驚いたのが、この「初回全話無料」を建前ではなく本気で取り組み、全ての読者に読んでもらうことを最優先している点です。

「読者ファースト」を謳っていても、やはり事業活動をする中では収益を求めてしまうものだと思います。しかし、「ジャンプ+」は優先度を明確化しており、「読者にマンガを読んでもらう」という目的を追求していると感じました。

「ジャンプ+」の場合、「初回無料」の仕組みを「マンガ誌の立ち読み」と同じような位置付けと考えているように思えます。第三者からすると驚いてしまうような発想ですが、この「立ち読み」の発想があるからこそ、多くのユーザーに「ジャンプ+」が支持されるようになり、結果として売上向上にもつながっているのではないでしょうか。

――今後、「ジャンプ+」にはどのような進化が求められると考えていますか。

戸部田 現時点で「ジャンプ+」は高い競争力を持っており、今後しばらくはその強さを保てるはずです。そこで課題となるのが、「少年ジャンプ」の特徴の一つである「挑戦的な姿勢」を保ち続けられるかどうか、だと思います。

 マンガ界の絶対王者と呼べる存在だからこそ、今後も攻め続けることは至難の業です。人材や世代の入れ替わりもある中で、そうしたマインドをきちんと継承できるかどうか、その点が一つの課題になると考えています。