ライター 戸部田誠氏(撮影:冨田望)ライター 戸部田誠氏(撮影:冨田望)

「週刊少年ジャンプ」(以下、「少年ジャンプ」)を擁する集英社が2014年9月に他の出版社に先駆けて創刊したデジタルマンガ誌「少年ジャンプ+」(以下、「ジャンプ+」)。「少年ジャンプ」と同様にヒット作を生み続け、2025年3月にはダウンロード数3000万を突破した。快進撃の裏にはどのような戦略があったのか。2025年5月に著書『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』(集英社)を出版したライターの戸部田誠氏に、取材を通じて戸部田氏が学んだ「ジャンプ+」の収益モデルのポイントや、同社の競争力を支える独自の文化について聞いた。

“テレビっ子ライター”から見た「ジャンプ+」の戦い

――戸部田さんは「てれびのスキマ」というペンネームで、“テレビっ子ライター”として活動しています。どのような経緯で、少年マンガ誌に関する本を書くことになったのでしょうか。

戸部田誠氏(以下敬称略) きっかけは、私の著書『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)を読んでいただいた集英社ノンフィクション編集部の編集者の方から、「ジャンプ+」に関するノンフィクションの執筆を依頼されたことでした。

 その方は、「テレビとマンガは、エンタメをつくる面白さという点で共通しているはず」「『ジャンプ+』の取り組みは、違う業界の人が読んでも何か得るものがあるはず」と考えたそうです。

 私自身も中高生時代にはずっと「少年ジャンプ」を読んでいましたし、マンガも大好きなので、「面白そうだ」と感じて依頼を引き受けました。

――テレビとマンガという別ジャンルではありますが、取材を通じて、テレビ業界との違いを感じた部分はありましたか。

戸部田 大きな違いを感じることはなく、むしろ両業界の人たちは似ていると思いました。前述の日テレについての本の登場人物は、テレビが「エンタメの王者」と呼ばれていた時期にテレビ業界に入った人たちです。そして今回の著書も、エンタメの中でも強いコンテンツを持つ集英社の方々を取材したものです。テレビ業界、マンガ業界の人たちが持つメンタリティは、非常に似ていると感じました。

――著書では、「いま『ジャンプ+』には黎明期と黄金期の両方の要素がある」と述べています。これはどのようなことを意味するのでしょうか。

戸部田 「ジャンプ+」はデジタルマンガ誌としての試行錯誤期を乗り越え、今まさに発展し始めたところだと思います。

「ジャンプ+」には、デジタルマンガの世界という「未開の地」で戦う黎明期としての面白さもありますし、一方でマンガという「エンタメの王様」を売って戦う黄金期でもあります。この「黎明期」と「黄金期」を体験している人たちの話は、過酷でありながら、どこか幸福感もある刺激的な内容でした。