
第2層完了 愛車に惚れ直す
ここまでで約3時間。馬場さんは718ボクスターだけの作業をしていますが、もちろん、僕はその光景が見えるように大きな窓ガラスが開けられた待合室にいます。持ち込んだPCで作業したりしながら、時々、作業室に入って見せてもらっていました。
そして次が最後の工程となる第2層目の塗り込みです。馬場さんは、第1層目とは別のパックに入った液体を塗り込み始めました。KeePerで使われている原材料はすべてドイツの化学メーカーSONAXと共同開発されたものと聞いて懐かしくなりました。

SONAXの名前はモータースポーツ取材で良く眼にしていたからです。F1でも1988年や89年のザクスピードのマシンのボディサイドにSONAXと描かれていました。他でも、SONAXのロゴが記されたマシンやドライバーを眼にした記憶が残っていますから、以前からモータースポーツをサポートしてきていたのですね。
日本のスーパーGTに参戦しているTGRチームのスープラやリアルレーシングのNSX-GTには大きくKeePerのロゴが描かれています。
それにも関わらず、レーシングマシンが写されたポスターやノボリなどが店内に見当たらないのはスッキリしていて、とても好ましい。ガソリンスタンドやクルマ用品店、タイヤショップなどではただ派手なだけのポスターやノボリなどが野放しになってカオスと化しています。でも、ここは例外的に落ち着いています。ホッとしてきます。
第2層目が塗り終わると、それが固まるまで約2時間の待機時間が発生します。代車を貸してもらって用事を済ませて、2時間後に戻ってきたら完成していました。

少し離れたところから見ても、美しさは歴然としています。作業室の天井の蛍光灯がクッキリと映り込んでいます。ボディ表面のエッジが際立ち、とても鮮やかです。樹脂パーツもシットリと黒光り。フロントフェンダーからリアフェンダーにつながっていく曲面と曲線が光を柔らかく反射していて、全体的に輝きながら生物の活気のようなものがみなぎっています。エステに行って肌が若返ったように感じる、あの感覚に近いように見えました。
「タオルで触ってみていただけると違いがわかります。どうぞ」

馬場さんから渡されたタオルでフェンダーやボンネットを撫でてみると、ツルツルで力を加えなくてもタオルが滑っていきます。施術する前には、手の平で押しても少し引っ掛かるようだったのとまったく違います。おそらく、施術前のボディ表面がザラザラ、ギザギザだったのに対して、それらが拭い取られ、その上に厚いEXコーティングの層ができたので平滑そのものなのでしょう。顕微鏡で覗いてみなくても想像することができました。見事なものです。
コモディティ化と愛着
6時間の作業時間と12万3800円(718ボクスターのSサイズで)の価値は大ありです。いくつかあるKeePerコーティングの中でも分厚い2層コーティングによって艶と耐久性を実現しているそうです。3年間のノーメインテナンスもしくは2年に1回のメインテナンスで6年間効果が持続します。これから、さまざまな光の下で見てみるのが楽しみになりました。
エステというか人間ドックというかデトックスというか、EXコーティングで718ボクスターが大いにリフレッシュされました。気に入ったクルマを末長く乗り続けていくためには機能面でのメインテナンスは必須ですが、ルックスのリフレッシュも大変に効果の大きなものでした。こちらの気持ちまで明るくなり、施術以来、遠回りして帰宅しているほどです。惚れ直しました。クルマがきれいになったことで、持ち主の気分まで入れ替えてまでくれたのには驚かされてしまいました。
電動化や自動化が進み、これからのクルマは便利で安全なコモディティ(日用品)に進化していきます。これまでのような楽しみ方ができにくくなりますが、コモディティになればなるほど反対にオーナーたちの自分のクルマへの愛着は増していくのです。なぜならば、たとえ電子回路やメカニズムなどは他人のクルマと一緒であっても、“自分のは違う”と思いたい気持ちはコモディティ化と反比例して強くなっていくからです。スマートフォンの使われた方を思い返してみてください。スマートフォンはiPhoneとアンドロイド携帯に寡占され、細かな差異はあるものの根本原理と使い方に変わりはありません。究極的なコモディティです。外観にも大きな違いがありません。しかし、みんな自分好みのケースに収め、ステッカーを貼り、指を通して持ちやすくするリングやホルダー、さざまな飾りなどを取り付けたりしてモディファイしています。自分好みに、そして自分に使いやすいようにパーソナル化しているのです。
クルマもコモディティ化が進むと、それに反発するかのようにオーナーが自分の愛着を表現したり、使い方をカスタマイズするようになるでしょう。KeePerのように外装をきれいにすることだけでなく、内装も対象になります。表皮を張り替えたのと見分けが付かないぐらいピッタリとフィットするシートカバーはすでに発売されていて、愛用者も多い。標準装着されたカーナビだけでは飽き足らない人が自分のスマートフォンやタブレットを使うためのアタッチメント類も選び切れないぐらいに発売されています。
それらはフィット感の向上や好みの操作性やインターフェイスといった機能面からの動機で取り付けられていますが、やはりその背後には“自分好みに改めたい”という個人的な欲求が隠れているのです。
したがって、このKeePerのようにクルマをきれいにすると同時にオーナーの気持ちの満足度まで高めてくれるサービスの意義はますます高まっていくのではないでしょうか。店長の馬場さんが一人で黙々と塗り込み磨き上げる作業はアナログそのものですが、デジタル時代に生きる僕らが無意識のうちに求めている何かが示されているように思えたのです