GTとGTSはまるで別物!

 とはいえ、スペック的にはGTとGTSに大きな違いはなく、最高出力が15ps増えて635psに変わった程度。もっとも軽い仕様の乾燥重量も10kg軽くなって1456kgとなったけれど、これらがパフォーマンスに大きく影響しなかったことは、0-100km/h加速タイムが3.2秒のまま変わっていないことからも明らかだ。

 ところが、乗ってみるとまるで別物で、マクラーレンのなかでもとりわけ快適だった乗り心地はさらに洗練され、一段と上質さを増していたのだ。特に印象的だったのは、サスペンションが動き出す瞬間や、たとえば縮み側から伸び側へとサスペンションのストロークが反転するときのしっとり感。このしっとり感は、サスペンションの無駄な動きを抑えるダンパーがしっかり働いて初めて感じられるものだが、サスペンションの動き出しやストロークの反転時にダンパーの機能を確保するのは一般に極めて難しいとされる。マクラーレンは、こうした部分にも細かな熟成を図ることで、これまで以上の快適さを生み出したのだ。

 もうひとつ驚いたのが、発進時や一定速走行から加速に移るような状況における駆動系の滑らかさ。これも言葉で書くとなんだかややこしいけれど、簡単にいえば加速時のガクンというショックが減ったのと同じで、これも乗り心地の上質さに結び着くポイントだ。

 それ以外にもエンジン音の雑味成分が減ってより質感の高い音色に変わったり、従来はシートベルトとシートが擦れてキュッキュッという軽い音がしていたのが消え去ったりと、質感の向上やさらなる熟成に努めたであろうことが至るところから感じられる。こうして快適性が向上した結果、GTSはGTを大きく上回るグランドツーリング性を獲得したのである。

 もちろん、ゴルフバッグやスキー板も置けると謳われた、シート後方のラゲッジルームは健在。さすがに、急ブレーキ時にキャビンに飛び込まれても困るのでスキー板を積む気にはならないけれど、コートやハンドバッグなどを放り込むには便利だ。これは、従来のミドシップ・スーパースポーツカーには求め得なかった利便性である。

 さらにはフロントのボンネットを開ければキャリーオンのスーツケースが2個収まりそうなくらいのトランクルームが現れる。カップルで1〜2泊の小旅行に出かけるには十分のスペースだろう。

 一般的なミドシップ・スーパースポーツとは異質の、控え目でエレガントなスタイリングも魅力的。これだったら、ビジネスシーンで使っても色眼鏡で見られなくて済みそうだ。

 私は、もしもスーパースポーツカーを手に入れることができたら、それを日常の足として使ってどこに行くにも乗って行くのが長年の夢だが、いまのところその夢にもっとも近いのがこのマクラーレンGTSかもしれない。その意味でいえば、GTSは夢のクルマというよりも現実的な選択肢といったほうが近いのかもしれない。

 それは、もしも私に必要な経済力があったらの話だけれど……。