大谷 達也:自動車ライター

マクラーレンは"屋根なし"のネガほぼナシ!

 マクラーレンの新世代プラグインハイブリッド・スーパースポーツカーであるアルトゥーラに、ルーフを開閉できるスパイダーが追加された。

 クーペとともにスパイダーを用意するのはスーパースポーツカーブランドにとってごく一般的なことだが、クーペとスパイダーのどちらを選ぶかは、ファンにとって悩ましい問題といえる。

 もちろん、ルーフを開け放つことで得られるスパイダーの開放感はなにものにも代え難い。けれども、ルーフが開閉可能なコンバーティブルにすると、必然的にボディ剛性は低下し、ハンドリングや乗り心地に悪影響を及ぼしてしまう。かといって、低下したボディ剛性を補うために補強材を追加すれば車重の増加は避けられず、今度は動力性能やハンドリングが犠牲になる。開放感を選ぶか、スポーツカーの基本性能を選ぶか。スポーツカー好きは、この二者択一を常に突きつけられてきたのである。

 しかし、マクラーレンのロードカーはすべてカーボンモノコックを採用している。しかも、別名“バスタブ”と呼ばれることからもわかるとおり、それはドライバーとパッセンジャーを下側から包み込むような形状をしており、多くの場合、ルーフに相当する部分に構造体を持たない。このためスパイダー化に伴う剛性の低下は無視できる範囲で、車重増も最小限に留められる。結果として動力性能やシャシー性能に与える影響はごくわずか。「スポーツカーを買うならスパイダーではなくクーペ派」を自認している私が、マクラーレンに限ってはスパイダーを積極的に推薦する理由は、この点にある。

出力は700PSに強化されている

 いや、それどころか、アルトゥーラ・スパイダーにはクーペを上回るパフォーマンスが与えられたのだから、驚くしかない。

 2022年にデビューした当時、クーペ版アルトゥーラはエンジンの最高出力が585psで、ハイブリッドを含むシステム出力は680psと発表されていた。ところが、今年2月にワールドプレミアを飾ったアルトゥーラ・スパイダーは、エンジンの最高出力は605ps、システム出力は700psへと引き上げられたのである。

 これは直近のライバルであるフェラーリ296GTB/GTSに対抗する措置だったと見られるが、スパイダーになってハイパワー化が図られるのは異例中の異例。もっとも、今回はエンジン・コントロールユニットのソフトウェア改良が20psアップの主な要因だったようで、同じ改良は現在発売されている最新のクーペ版アルトゥーラにも採用された。さらにいえば、デビュー当時の初期型を所有するオーナーも、ディーラーに持ち込むことで同様のパワーアップを無償で受けられるらしい。なんとも太っ腹な対応ではないか。

 前置きがだいぶ長くなったが、そろそろアルトゥーラ・スパイダーに乗り込むことにしよう。