八田 結局、何がきっかけで導入が決まったのでしょうか。

斉藤 第2次安倍晋三政権下で厚生労働大臣だった塩崎恭久さん(元自民党衆院議員)が、マニフェストに盛り込むファクト探しをする中で、コーポレートガバナンスに目をつけたんです。まぁ、経団連にしてみれば、「余計なことをしおって」といったところでしょうか。

 塩崎さんは欧州視察から帰ってくると、「ソフトロー(非法的規範)でも良いのではないか」と言い出すんですね。法務省が反対しているので法律にするのは難しい、それならソフトローでどうかというわけです。イギリスはソフトローのメッカですからね。法律ではないので強制力はないし、罰則規定は設けられませんが、企業側の自主性を尊重するという点で、日本人のメンタリティに合っていますし。

八田 法律なら金融庁マターですが、コードなら所管は証券取引所、つまり東証になります。「コード」はソフトローの別称ですし、企業側も法律じゃなければ、あまり圧迫感を感じなくて済みますね。

斉藤 安倍さんは詳細はわかってなかったようですが、政権の「日本再興戦略」の中にいったん入ったら流れが変わったんです。2021年に亡くなられた池尾和人先生(経済学者、元慶応義塾大学教授)とも何度か議論しましたよ。

八田 早稲田大学の上村達男教授(法学者)によれば、イギリスのコードはハードローよりも厳しいんだそうですね。日本語では「遵守せよ、さもなければ説明せよ(Comply or Explain)」、つまり、ルールを遵守しないのであれば、その理由を説明すればいいだけですが、イギリスの場合は、そんなに生易しいものではないそうです。

 コーポレートガバナンス・コードは3年ごとに2回改訂されており、上場企業にかなり浸透しましたから、ハードロー(強制法規)に変えなくても、ある程度の実効性は保たれているのではないでしょうか。

<連載ラインアップ>
■第1回 株主に揉まれて企業は強くなる ROEが通じなかった日本に「コーポレートガバナンス・コード」はいかに導入されたか?(本稿)
■第2回 「監査役会設置会社」「指名委員会等設置会社」「監査等委員会設置会社」…曖昧さの残る仕組みは本当に機能するのか(12月19日公開)
■第3回 日本には「プロ」がいない 企業をキリッとさせる本物の「経営者」「社外取締役」の本分とは?(12月26日公開)

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