青春時代に憧れつつも、どうしても手が届かなかったアノ名品だって、いまなら手が届く…いや、むしろいまだからこそ手を伸ばす価値がある! 自分と等しく年月を重ね、“次代のヴィンテージ”と目されるに至った、ファッション界の人類遺産たちに、いま改めてスポットを当てる。
写真=丸益功紀[BOIL] スタイリング=コダン 文=黒澤正人 編集=名知正登
![](https://jbpress.ismcdn.jp/mwimgs/8/8/750wm/img_8839c34e0fea8e5d0dc53aa7868ce36a1738050.jpg)
王道のアメリカンワークとは趣の異なる洒落感&脱力感に争奪戦が激化
一体第何次なのかは知る由もないけれど、ここ数年は間違いなくヴィンテージブームが再燃している。しかもそれは、おそらく過去に起こったブームとは比べものにないほど熱量が高い。
……なんてことを言うと、古くからの古着好きから“いやいや昔のほうが盛り上がっていた!”的な指摘があるかもしれないが、令和における古着ムーブメントは、もはやコアな層だけのものではない。老いも若きも、男性も女性も、コア層もライト層も、思い思いにヴィンテージを楽しんでいる。つまり熱を上げている「層の厚み」が段違いなのだ。
要因はいくつかあるけれど、大きいのは「情報摂取手段の変革」だろう。かつてのブーム時は、うるさ方の古着通たちが、ごく狭いコミュニティで口コミ的に情報を伝達し合っていた。やがて雑誌が主な情報摂取手段として発達した後も、発信者の数自体は限られていたことから、“今はコレが熱い!”と右向け右的に同じアイテムを争奪し合う状態に。言い換えると深遠なヴィンテージワールドのなかでも、ごく狭いジャンルのみに人気が集中していたのだ。
対して主たる情報摂取手段が、SNSをはじめとするネット環境へと移行すると、繰り返しになってしまうが、老いも若きも、男性も女性も、コア層もライト層も、 “コレが熱い!”と思う情報を、各人が思い思いに情報を発信することとなった。
加えて発信者の数が急増したのと同時に、単純に2020年代へと時が進んだことで、「ヴィンテージの範囲」が拡大。好みが細分化され、それぞれに熱心なフォロワーが生まれるとともに、90年代〜2000年代のアイテムまで希少価値が高まったことで、かつては古着のなかでも「レギュラー」という扱いだったはずなのに、「ヴィンテージ」とジャッジされるアイテムも増えていくこととなった。
今回取り上げる「フレンチワーク」も、まさしくそんな新世代のヴィンテージ界において、「価値あるヴィンテージ」と目されることになったジャンルのひとつ。
正確に言えば、ひと昔前も価値あるヴィンテージだったが、前述の通り、それはあくまでも超コアな服好き=ピラミッドの最上層の人々の間でだけの話。現在は服好きを自称する人々の共通言語として使えるまで認知度が拡大=ピラミッドの中層域まで興味を持つ人が急増した。すると需要と供給のバランスが崩れるのが世の常。ここ数年で相場価格は高騰の一途を辿っている。
では一体なぜフレンチワークが一躍人気銘柄に躍り出ることになったのか。理由はいくつかあると思うが、主たる要因はおそらく“アメリカのワークウェアとは趣の異なる洒脱さ”を感じるからだろう。ワークウェアの王道といえば、今も昔もやっぱりアメリカ物。デニム地のジーンズやオーバーオール、カバーオールなんかは言うまでもなく、各種ダック地やT/C(ポリエステルと綿の混紡素材)生地の製品など、「アメリカンワーク」にカテゴライズされるアイテムは、どれもいい意味で粗野で雄々しく、工業製品的な雰囲気を纏っている。
対してブラックシャンブレー生地のコートやモールスキン生地のカバーオールなど、「フレンチワーク」の顔役を担うアイテムを見ると、その違いは明白。土臭さはほんのり残っているものの、どこか瀟洒で、過度なワーク風味が軽減されているように感じる。労働着を出自としながら、洒落着として機能するのがフレンチワークの魅力なのだ。
同じ「ワーク」というカテゴリーでも印象が異なるのは、お国柄を反映しているからなのか、ハッキリした理由はわからないけれど、この「ワークなのに洒脱」という特異性によって、ここ数年の間でフレンチワークの信奉者は一気に増加。いつもと同じカジュアルな装いのはずが、フレンチワークを一点投入するだけで、玄人のオーラが強化される。ロゴやグラフィックで希少性を喧伝するオラオラなファッションと距離を置きたい大人にとって、フレンチワークは絶大な効果を発揮してくれるのだ。