文=細谷美香
10歳から26歳へ、成長していくまでの物語
近未来のオーストラリアを舞台にした1979年の『マッドマックス』を皮切りに3本が製作され、20年の時を経て2015年に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大ヒット。火炎放射器付きのギターをかき鳴らす者など濃いキャラクターも登場、何より独裁者のイモータン・ジョーに反旗を翻し、子供を産むために囚われていた女たちを解放するフュリオサを演じたシャーリーズ・セロンが世界中を虜にした。
そして今年、彼女を主人公にした『マッドマックス:フュリオサ』がついに公開。フュリオサがなぜカリスマ性とリーダーシップあふれる最強の戦士となったのか。『怒りのデス・ロード』の前日譚がスケール感たっぷりに描かれている。
世界が崩壊してから45年。暴君であるディメンタス将軍率いるバイカー軍団によって、女たちが暮らす水にあふれた“緑の地”から連れ去られたフュリオサ。幼くして家族も故郷も奪われてしまった彼女は、ディメンタス将軍とイモータン・ジョーが派遣を争う世界で、復讐のために立ち上がる。
シリーズの魅力である猛スピードのカー・アクションは、今回もエンジン全開。マッドな改造車やバイクが砂漠を駆け抜け、転倒しながら炎を上げて壮絶なチェイスを繰り広げる。臨場感あふれるカメラワークと爆音が興奮を呼び覚まし、これぞ『マッドマックス』といったシーンの連続!
クマのぬいぐるみを携えたディメンタス将軍を人間味たっぷりに演じるクリス・ヘムズワース、フュリオサの相棒である警護隊長のジャックを深みのあるキャラクターとして演じたトム・バークらの存在感も荒野のなかで光っている。
前作は3日間の物語だったが、この前日譚で描かれるのはフュリオサが10歳から26歳へと成長していくまでの物語。フュリオサが何を奪われ、どんなことに怒り、いかにして戦う覚悟を決めたのか。ジョージ・ミラー監督は彼女の運命に寄り添いながら、最強の戦士になるまでの時間を丁寧に紐解いていく。若き日のフュリオサを演じたアニャ・テイラー=ジョイには、きっと誰もが魅了されることだろう。
Netflix『クイーンズ・ギャンビット』では男社会のチェスの世界で生きる天才少女、時を超えて女たちの連帯を描く『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』では60年代のロンドンで歌手を夢見る女性と、過酷な世界でサバイブしようとする人物を演じてきたアニャ。フュリオサは極端なほどセリフが少ないため、アクションも含めて身体で語り、観る者を射抜くような目力ですべての心情を語り切る。オイルで目のまわりを黒く塗りつぶしても、彼女が放つ気高い光は決して失われることはない。