マスカスタマイゼーション実現の考え方

 マスカスタマイゼーションを実現するための、3つのアプローチを紹介する。

① デジタルプロセスやものづくり技術の活用

 近年のマスカスタマイゼーションとして紹介される事例を見ると、その多くがIoTやデジタル技術を活用した事例となっている。ここでは顧客仕様をデータ化し業務のインプットとすることで、見積もりから設計・生産・物流までが高度に一貫化され、短リードタイムでの製品提供を実現している。

 さらに一歩進めて、顧客がWEB上にダイレクトに希望仕様を入力できる取り組みも広がっている。企業からみれば、顧客ヒアリングのプロセスを省いて仕様データを得ることができ、顧客側からみれば、自分が仕様を決定しているプロセスそのものをUXとして楽しみながら体験することができる。

 そしてものづくりの面では、レーザー加工や3Dプリンターなどの自由度が高い自動加工工程、ロボットとAI画像認識の連動による自由度の高い組立工程、工場内で独立した工作機械や自動搬送機同士のデータ伝送・協調技術など、スマートファクトリーがグローバルで実現されてきており、これらのデジタルテクノロジーがマスカスタマイゼーションを支えている。

② 製品構造そのものを変えて、顧客対応と生産効率を両立しようとするモジュラーデザイン

 製品が分割できる構造であれば、製品のブロックをモジュール化することで、顧客要望に応じて適切なモジュールを選択して組み付けることで顧客要求へのすばやい対応が可能となる。

 また製品構造を、顧客要求によらず共通化が可能な固定部と、顧客要望を積極的に取り入れた変動部に分ける「固定/変動化」も取り入れることができれば、さらに量産効果を享受することができる。この「固定/変動化」の考えは分割構造を取りやすい組み立て製品でなくても応用が可能である。例えばシート状の製品であれば、流し方から見て幅方向は固定にして長さ方向は顧客に合わせて変動化させることで、生産設備は1台で多様な仕様を生み出すことができる。

 モジュラーデザインは製品と生産構造を再構築する試みである。製品構造のモジュール化とそれに対応した形で製造工程も構築することで、スピードと低コスト、顧客要求対応という競争優位を築くことができる。

③ 個別仕様ごとに大量生産が可能なビジネスモデルを構築する

 ここでいうビジネスモデルは、複数の製造拠点をつなぎ、ある特殊加工はA工場、汎用(はんよう)加工はB工場というようにそれぞれの生産拠点をネットワーク化するアプローチである。

 これまでも同一工場内でラインを分けて生産することは行われてきたわけだが、ここでは各生産拠点が一定以上の物量でものづくりができる大量受注生産を採用することで、個別仕様対応と量産対応をネットワーク全体で実現している。このアプローチではプラットフォーマー企業が大量の受注を集約し、生産企業をネットワーク化するビジネスモデルを実現する必要がある。

 以上3つのマスカスタマイゼーションの実現アプローチを述べてきたが、このような大きな革新を伴うアプローチが難しくても、身近な業務プロセスやモノづくりのやり方を点検・改善することでマスカスタマイゼーションに近づくことは十分可能である。

 次回は個別受注型企業からみた、業務プロセスやモノづくりの上で点検すべきポイントについて述べていく。

コンサルタント 柏木 茂吉 (かしわぎ しげよし)

R&Dコンサルティング事業本部
兼 デジタルイノベーション事業本部

入社以来一貫して技術部門に対する支援を継続している。コンサルティングテーマは製造業の業務再構築・システム導入、開発・設計プロセス改革、設計品質向上など。
支援企業は、自動車製造、Tier1自動車部品、精密機械、化学メーカーなど日本を代表するエクセレントカンパニーに対する支援を多数有している。