前回まで、製造業における「新規事業」について述べてきた。企業内に眠る有形、無形のあらゆる資産は新しい事業を生む種であり、「つくって売る」だけではないビジネスの実現について、さまざまな事例と共に解説した。
「今月の3つのアクションプラン」では、社内のリソースの見直しや、それを「事業計画書」に落とし込んでみることを提案した。事業プランが、ただの「アイデア」で終わるのか、実効性をもって事業化するのかは、まずは計画書ベースでもよいので具体的に言語化、数値化してみることをお勧めしたい。それをベースにチームで意見を出し合い、事業の先にある未来に思いをはせていただきたい。
さて、今回はそんな未来を共に描けるような、少し大きなテーマで話を展開していこう。
今後20年で「製造業の前提」はここまで変わる
デジタル化の波は不可逆であり、一度開いたドアは二度と閉じることはない。どれほど「かつての栄光」を懐かしんでもその時代に戻ることはないわけだ。しかも、デジタル化による変革は一度弾みがつくと加速度的に進み、われわれの想像を遥かに超える未来につながっていく。以下は、想像できる今後20年の社会の姿だ。
1.現実世界の仮想化
かつて、スケジュールは手帳に書くものであったし、時刻表は駅で確認するものであり、音楽はレコードやCDで聴くものであった。しかし、これらは今や、スマートフォン1台の中でデータを管理し、確認したり、楽しんだりできるようになっている。わずか十数年の間にソフトウエア化が進んだわけだが、今後20年はその対象がますます広がるだろう。
2.仮想世界のリアル化
2015年、音楽シーンの殿堂である日本武道館で初音ミクが公演を行った。バーチャルシンガーとしては史上初であり、モーションキャプチャー(人などの動きをデジタル化する技術)をベースとしたそのリアルな存在感は観客を圧倒した。当時の衝撃は今や、もはや当たり前になりつつある。これまで仮想の世界だけで起こっていたことが、リアルに目の前に存在できるようになった。今後20年で仮想と現実の境界線はほぼなくなっていくかもしれない。
3.業界の境目がなくなる
現在も既に進んでいるが、もはや業界の境界線は、ますます意味をもたなくなっていくだろう。製造業にとっては「自分たちの事業」という概念を覆すチャレンジも必要になってくる。これまでも伝えてきたように、製造業でもシステム・ソフトウエア業界に進出可能であるし、業界の枠に捉われないベンチャー企業は今後ますます躍進していくだろう。
4.リモート化(コロナインパクト)
新型コロナウイルスの感染拡大を経験したわれわれは、リモートで営業や製造、その他の業務を行うことへの抵抗がほぼ取り払われたと言っていいだろう。リモート化するトレンドは避けては通れない。とはいえ、全てを単純にリモート化すればよいというわけではなく、現実にはその場にいなくても、まるでそこに存在するような技術を取り入れることで(項目2の仮想世界のリアル化)、よりリアリティを持ったリモート化が進むことだろう。
5.SDGs/ESG:環境配慮
さて、今後20年で最もインパクトのあるトレンドになり得るのが、環境配慮である。「儲かればいい」という利己的な経営姿勢は、投資家からも、一般の消費者からもそっぽを向かれ、事業が立ち行かなくなるだろう。
今後20年で、これらのことがビジネスを行う上での「前提」となる。まずはそのことを理解していただきたい。