文=松原孝臣 写真=積紫乃

まずは「繋がりを築くか」が重要

 記者会見をはじめとする試合の場での通訳をはじめ、スケート関係の会議にも参加するなど、通訳という立場からフィギュアスケートにまつわるさまざまな活動を、平井美樹は担ってきた。

 それにとどまらず、これまで数々のスポーツにも携わってきた。その経験からスポーツの世界について知ったことがある。

「スポーツ外交はすごいです。すべてのスポーツのNF(国内を統括する競技団体)にあてはまる課題なのですが、IF(国際競技団体)やIOC(国際オリンピック委員会)レベルの横のつながりはすごく密なんです。そこにどう入っていって、つながりを築くかがまずは重要で、情報をとってくることすら難しい状況があります。

 もう1つは、各国のNFの代表として来られる方は、弁護士や会計士、事業をやっている方などもけっこういらっしゃいます。そうなると話についていくのも精一杯になって、発言するのも簡単ではない面もありますね」

 そしてスポーツにおける日本の外交力に課題があることを痛感する。

 外交力は、ひいては選手にも跳ね返ってくる。例えば、スキー・ジャンプや競泳などでは、日本の選手が活躍すると、それをおさえつけるためであるかのように推測されるルール改正が起きたことがある。そのたびに、議論を呼び波紋を投げかけた。

 では、フィギュアスケートではどうだったか。具体的に特定の選手を狙い撃ちすることは表向きなくても、そのルール改正が、少なくとも日本の選手に不利益をもたらすことになる——そのようにとれる、考える余地がある改正もあった。

 しかも露骨に行われるわけではなく、なんらかの大義名分を掲げて、そうした動きは進む、つまりオブラートに包むように進行する。だから、対抗する手立ても容易ではない。それでもフィギュアスケートの場合、発言して意思を表明していくことの重要性を認識し、時間をかけて発言の機会をつくり、外交にも尽力してきた。日本の競技団体の中ではそこにかけるエネルギーは強い。行動も起こしている。ただ、課題は残されている。

 実は平井が「外交力の課題」を感じるのは、スポーツに限らない。政治、ビジネスなど幅広い分野で活動してきて得た経験や蓄積から感じることがある。

「日本の国際関係をやっていた人間としては、どのジャンルに行っても同じ構図があることが分かります。だから、そこを変えていきたい、と思っていますし、ライフワークになっています。やっぱり通訳とは、伝わるものにしないといけないと思っていますし、伝わらないなら通訳はいらないです。ですから、プレゼンテーションなりスピーチなりするときの、アドバイザーとしての活動も行っています。

 いろいろな分野に携わる中で共通の課題は見えたし、自分自身も悔しい思いをして、悔しい思いをしている方も見てきましたから」

 フィギュアスケートもそこに含まれている。そしてフィギュアスケートのために、という強いも思いがある。