「大人になってもワクワクしたい!」ということで、始まったこの企画。次回の取材先を調べていると、「しながわ水族館」の「裏側潜入ツアー」を発見する。このツアーは、水族館のバックヤード(裏側)を見ることができると人気らしい!水族館の裏側ってどんな感じなんだろう。水族館を愛する松宮。裏側も見てみたい!そういえば、都内在住なのに「しながわ水族館」に行ったことがない。
と、いうことで大人の社会見学(第2回)は「しながわ水族館」の「裏側潜入ツアー」へ!
取材当日。JR品川駅から京急に乗り換える。京急はエアポート急行や特急など、電車の種別が多い。そのため乗り間違えないかドキドキするが、無事に普通(電車)で大森海岸駅へ到着。
大森海岸駅の改札を出て左へ。道案内をしてくれるイルカのモニュメントがあるので、わかりやすい。
「しながわ水族館」は「しながわ区民公園」内にある。水族館を含め、一帯が「市民の憩いの場」となっているのだ。池の周りにあるベンチでくつろぐ人々やアジサイを眺めつつ、館内へ。
意外なきっかけで誕生!「しながわ水族館」
「しながわ水族館」は1991年10月19日にオープンした。 誕生したきっかけは、アンケート。品川区民にアンケートを取ったところ、「水族館がほしい」という要望が1位になったからだそう。
「しながわ水族館」は創業後、都内はもちろん、神奈川・川崎や横浜など近隣の住民に親しまれてきた。入館料が1,350円(高校生以上)と、水族館としてはかなり格安だ。これは品川区の施設であるため。年間パスはないが、リーズナブルな料金のため気軽に行きやすい。特に春から夏の土日に人出が多いという。
「しながわ水族館」では1990年代前半から2020年2月末まで「裏方ウォッチング」という、無料の人気ガイドツアー(定員15名)が毎週土曜日に開催されていた。実施日・回数を増やして安全面と安定したサービスを提供すべく、「裏側潜入ツアー」としてリニューアル。
「裏方ウォッチング」の参加者は子供連れの家族やカップル、1人などさまざま。年齢層も幅広い。狭い場所や段差があるところを通るため、4歳から参加できる。料金は500円(別途入館料が必要)。ツアー時間は30分ほど。平日は14時からで1日1回。土日は11時・14時と1日に2回開催する。各回の定員は10名。事前予約はなく、開催時間に水族館の入口にある「イルカルーム」に集合する。
「子供のころから動物が好きで小・中学生の時に熱帯魚を飼っていた」という瀬川さん。高校卒業後、水族館の飼育員になるべく専門学校に進学。実技を学び「しながわ水族館」に就職したそうだ。
自分とは違う、異種業に就いている人の経歴は興味深い。水族館の飼育員を育成する専門学校があるとは、初めて知った。
いよいよ「裏側潜入ツアー」がスタート!
「東京湾に注ぐ川機械室」の扉を開けると……
ふと上を見ると、天井には無数の配管が走っている。メタリックな感じがカッコいい。 左手には、なにやらハイテクっぽい装置がある。これは一体?!
砂を使用する理由は3つ。「水質が安定するから」「コスト面」「砂のろ過装置を使用する前提で水族館が建てられたため」。ろ過に砂を使うと聞いて意外だったが、さまざまな理由があるんだなと納得。ろ過装置に使う砂の寿命は4~5年とのこと。
ちなみに、創業当初の1991年から同じろ過装置を使用しているそうだ。「今年で創業32年を迎えるが、壊れたりしないのか」と思い、質問する松宮。すると「定期点検を行い、部品をチェックしている」と瀬川さんが解説してくれる。ふと、目にした酸素ボンベについて聞くと、「緊急時にエアレーション(ぶくぶく)を起こすもの」とのこと。
水族館にとって、水は生命線だ。人間が欠かせない空気のようなもの。館内では水を頻繁にろ過し、バランスを保っている。生き物を展示し、お客さんに見てもらうため水の透明度は自然界よりも高い。
最寄りの大森海岸駅からもわかるように、「しながわ水族館」の一帯はかつては海岸だったという。高度成長の工業化により開発が進み、東京湾の埋め立てが行われたため、海岸はなくなった。「しながわ区民公園」にある池は、運河の水をろ過したものでイルカ&アシカ用に一部使用しているという。だが、魚など多くの海生生物には、比重などの水質が安定しない運河の水は使用できない。水質が安定している海水が手に入りにくい都市型の水族館というのもあり、ろ過装置はかなりの割合を占めている。
魚の(水槽に使う)水は2種類。1つめは水道水だ。地下に溜められた水道水は揚水ポンプを経て塩素が中和され、配管を通って屋上へ。屋上に溜まった水は(魚の水槽に)使用できる状態だ。もう1つはなんと、「購入している水」なんだそう!東京・八丈島などでは、荷物を運ぶ航路がある。荷物を下ろした後、船はバランスが取れなくなってしまう。そのため、海水を入れてバランスを取るという。その海水を購入し、東京湾からトレーラーで運んでいるとのこと。水を購入しているとは!
生き物がいる水族館にとって、ろ過装置や水がどれだけ大切なのか。「裏側潜入ツアー」に参加して初めて意識した気がする。
ここで、「(日によって)行かない場合もあるんですけど、移動しましょう」と瀬川さん。「どこに行くんだろう」と思いつつ、後に続いて段差を乗り越え、階段を上ると……
ふと、茶色いものを指して「持ってみて」と言う瀬川さん。
これは……「港にあるあれ!(名称がわからずそう呼んでいる)」。正式な名称は係船柱(けいせんちゅう)というらしい。初めて知った。鉄製でとても重そうだが、大丈夫だろうか。恐る恐る持ってみると……
「品川と海」は品川の港湾地域を再現している。と、いいつつも「実はニセモノが多いんです」と笑う瀬川さん。
水族館の展示物にFRPを使用しているのは、掃除やメンテナンスのため。水族館の展示物を専門に製作する業者はいないらしい。「しながわ水族館」では、遊園地などの展示物も製作する業者に依頼しているそうだ。へえ~、これも知らなかった!
調餌場に突撃!
「裏側潜入ツアー」のラストは生き物のエサを作る調餌場へ。ドアを開けると、魚やいろいろな食べ物が混ざったような匂いが漂う。室内には魚などを切る台が複数あり、レストランの調理場みたい。
水族館の生き物にとって、エサはとても重要。元気な姿を見てお客さんに楽しんでもらうためには、「生き物は身体が資本」なのだ。そのため、「エサの鮮度にはかなり気を遣っている」と瀬川さん。魚をさばく時、身が崩れているものは避けるそう。「水族館の生き物は皆さんよりも、いいものを食べているかもしれませんね」と瀬川さんは笑う。日頃の食生活を顧みて「確かにそうだろうな……」と納得してしまう。
カラフトシシャモのメスをエサに使わないのは意外。卵があるメスの方が「栄養がありそう」と思っていたが、オスのみとは!
エサを作る作業は鮮度を大切にするため、毎日行っているそう。「メスはエサに使用しない」というのはとても意外で驚いた。
調餌場を見学したところで、最後の冷凍庫へ!
-23.5℃の世界
瀬川さんにうながされて冷凍庫の中へ入ってみると……
冷凍庫では生き物用のエサを保存している。「ただし、2週間しか保存しない」と瀬川さん。ここまで鮮度を大切にしているとは!あらためて「飼育員は命を預かる仕事なんだな……」と、強く意識する。
水族館では生き物を展示し、お客さんに楽しんでもらう。そのため、生き物は健康体である必要がある。だから水やエサなどは、とても繊細に管理しているのだ。
と、ここであっという間に「裏側潜入ツアー」が終了!
通常、水族館に行く時には表側しか見ることはない。だが「裏側潜入ツアー」は、ろ過装置や水、配管、エサなど生き物を支えるものや飼育員の日常を垣間見れる。ツアーに参加すれば、子供は生き物に興味を持つきっかけになるかもしれない。大人は生き物やその環境、職業として飼育員について学ぶのも楽しめそうだ。一度裏側を知ると、表側も違って見えるはず。
今回は質問や取材したい場所がとても多く、取材は長時間に。もうすぐ閉館で帰ろうかとまさにその時!「シロワニの電気をつけましたよ!(冒頭の写真を参照)」と一度取材が終わったのに、わざわざ戻って来てくれる瀬川さんに「生き物(シロワニ)への愛」を強く感じた。
ほかにも、インカムを使い「今、エサやりするそうです!」とスタッフ間でやり取りし、取材に協力してくれるみなさん。思わず「生き物に接する人々は「人間にもやさしい……」とつぶやくと「(生き物を)知ってほしいから」と言った、スタッフの方が強く印象に残った。