AIの倫理について説明する、アドビのシャンタヌ・ナラヤンCEO(撮影:指田昌夫)

 AIが急速に進化してビジネス利用にも期待が高まる中、生み出した結果への信頼性や学習データの収集、管理が問題視されている。大手ソフトウエア企業のアドビが3月に発表した画像生成AIは、この問題に対する一つの解決策を示している。

アドビの狙いは、AIによるクリエーターの解放にある

 「Adobe Photoshop」「Adobe Illustrator」などクリエーター向けソフトウエア製品を開発・販売するアドビは、クリエーター向けに画像の自動生成AI「Adobe Firefly」を開発し、ベータ版(試用版)の提供を開始した。

 本サービスは、同社が2023年3月に米国で開催した年次イベント「Adobe Summit 2023」の場で発表。クリエーターによるテストを経て、年度内の本サービス開始を目指している。

アドビは自社イベント「Adobe Summit 2023」の目玉として生成型AIを発表した。(画像提供:アドビ)

 Adobe Fireflyの特徴は、クリエーターを単純作業から解放し、人をより高度なクリエイティブワークに集中させるために生まれたサービスであることだ。

 これまでもアドビでは、自社のクリエイティブ向けソフトウエアの機能をAIで強化してきた。

 例えばAdobe Photoshopでは、画像の中から1人の人間だけを選択し、きれいに切り抜く機能や、背景を自動的に生成する機能を提供している。これらの機能で、クリエーターの作業は大幅に効率化されることが予想されるが、昨今のコンテンツ需要の急速な高まりによって、それでも作業が間に合わない事態となっている。

 アドビの調べによれば、企業のマーケティング担当者の88%が、過去2年でコンテンツ需要は2倍になったと答え、同じく3分の2近い担当者が、今後2年間でコンテンツはさらに5倍必要になると答えている。

 なぜ大量のコンテンツが必要なのか。

 それは企業と顧客の接点を担うチャネルの多様化と、個々の顧客に合わせたコンテンツの出し分けを行うパーソナライズ化が進んでいるためだ。

 例えば、Webのバナー広告は、ユーザーが異なればほとんど同じ広告は表示されない。検索やECサイトの購買など、それぞれのWeb上の行動結果から、興味がありそうなものを推定して配信しているためだ。

 企業が顧客接点として対応するチャネルやデバイスも増加の一途である。特にSNSでの配信には画像や動画などのリッチなコンテンツが不可欠である。

 しかも、タイムリーさが要求されるため、タイミングに合った内容のコンテンツを用意しなければいけない。内容は単純なのだが、素材の組み合わせやサイズ違い、表現を焼き直したバリエーションを多数用意する必要がある。

 これらをクリエーターが1点ずつ作る意味はないが、機械的に合成することも不可能だ。そこで生み出されたのが、AIによる画像の生成技術である。

 Adobe Fireflyのベータ版は、オンラインサービスとして提供されている。現在は日本語に対応していないため、指示は英文で行う。

 例えば、「side profile and ocean double expose portrait(横顔と海、二重露光の写真)」という指示を入れると、このキーワードをAIが読み解き、複数の画像を候補として表示する。ただ単語にマッチする画像を切り抜いて合体したものではなく、素材を基にして1枚の画像として加工した後に出力される。もちろん、結果を自分の手で、さらに加工することも可能だ。

「Adobe Firefly」のデモ画面(画像提供:アドビ)

 もし、このお題の画像を人間が何もないところから作ろうとしたら、素材を探し、配置を決めて画像を重ねる作業が必要で、かなりの時間がかかる。それを複数作るのは至難の業だ。

 Adobe Fireflyを使えば、クリエーターが素材の調達や組み合わせ、調整などに多くの時間を使うことなく、欲しい画像を手に入れることが可能になる。

 アドビでは、Adobe Fireflyの機能を自社のクリエイティブ製品に組み込んで、簡単な画像であればクリエーターの手を煩わせずに自動的に生成することを目指している。