最後まで浮世絵にこだわり続けた芳年

 芳幾とは対照的に、芳年は浮世絵にこだわり続けた。国芳から受け継いだ血生臭い武者絵から脱却し、晩年には文学性を重視した静謐な世界を浮世絵作品として描いた。その時期の代表作が《月百姿》。実在・架空を問わず、説話や神話、能狂言、歌舞伎、落語などに登場する様々な人物が月夜の風景の中に描き出されている。

左から、芳年《月百姿 卒塔婆の月》、芳年《月百姿 石山月》ともに浅井コレクション

 幻想的ともいえる、詩情あふれる芳年の到達点。芳年には“血みどろ絵”のイメージしかないという人は、ぜひ《月百姿》をじっくりと鑑賞してほしい。

 さて、芳幾と芳年の直接対決の行方は? あえて決着をつけるとするならば、今回は芳幾の勝ちとしたい。ほとんど知らなかった絵師を知るのは純粋にうれしいし、時代の変わり目に何とか活路を見い出していこうとする生き方にも共感を覚えた。「芳年はやっぱりすごいが、芳幾も負けてない」。それが素直な感想です。