文=藤田令伊 

オディロン・ルドン《薔薇色の岩》 1880年頃 岐阜県美術館

日本最大のルドンのコレクション

 日本には、思わぬところに思わぬコレクションがあることがある。「思わぬ」だから、人々に広く知られていないことが多く、結果、訪れる人も限定的となり、そうなるとじつにもったいない話である。

 もしかしたら、岐阜県美術館もそのようなところかもしれない。岐阜県美術館と申し上げても、「ああ、よくある県立の美術館ね」と思われるだけかもしれない。しかし、もしここが「ルドン美術館」という名前だったらどうだろう? ちょっと印象が違ってくるのではないか。

 結論的なことからいうと、ここは「よくある県立の美術館」とはひと味違うミュージアムなのである。とりわけ、オディロン・ルドンのコレクションが充実している。いや、充実というよりは、もはや異様といってもいいぐらいで、その作品数たるや、じつに250余点というから、これを驚きといわずして何といおうか。もちろん日本最大のコレクションである。

 

《薔薇色の岩》という一枚

 オディロン・ルドンは19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの画家である。「幻想画家」と呼ばれることもある人物で、伝統的な絵画とは一線を画した一風変わった絵を描いた。ルドンが活動した時期は印象派と重なるが、印象派ともまったく違う。論より証拠、作品をご覧いただこう。

 岐阜県美術館には先述の通り、おびただしい数のルドン作品が所蔵されているが、なかでも私が注目するのは、《薔薇色の岩》という一枚である。

 大きさはタテ27.3cm×ヨコ41.1cmと、さほどではない。内容もただ大きめの岩が描かれているだけといえば、それだけである。灰青色の空を背景にした、どこかの海辺らしい場所が舞台で、砂浜の上に石などが転がっている。そのなかに主役(?)の岩がある。

 その岩は他の石や岩よりも大きく、タイトルの通り、いくぶん薔薇色を帯びている。光が当たっているようにも見える。形は基本的には長方形だが、正しい長方形ではなく、向かって右側のほうが高く、左に向かうにつれて途中から左下への斜線となっている。斜線の中間あたりには小さな段差もある。そのため、形のバランスが悪く、ちょっとひしゃげたようでもある。

 表面は一様ではなく、ところどころ白や黒、茶色のパッチ状の模様が入っている。また、背景の水平線がちょうど岩を貫く位置にあり、見ようによっては水平線に串刺しにされているようである。空は何一つはっきりしたところがなく、もやもやと正体不明感に満ちている。