血みどろ絵・肉筆画は芳年が上?
鑑賞前の知名度では圧倒的に芳年が有利。芳年には“血みどろ絵”という得意ジャンルがあり、古今東西の月をテーマにした《月百姿》などシリーズ物も人気が高い。一方、芳幾は知る人ぞ知る絵師。かくいう記者も落合芳幾という名に聞き覚えがある程度で、「代表作は何?」と聞かれてもひとつも答えられない状態だった。
さて、展覧会を見ていこう。序盤は1849(嘉永2)年頃に17-18歳で国芳に入門した芳幾と、その翌年に12歳で入門した芳年が、師の教えを受けつつ腕を磨いていた時期の作品を紹介。その中でハイライトといえる作品が《英名二十八衆句》だ。
《英名二十八衆句》は歌舞伎や講談の残酷なシーンを抜き出したシリーズ物で、芳幾と芳年が14図ずつを分担して描いている。2人揃っておどろおどろしい描写に挑んでいるが、血生臭さという点ではやはり芳年が上。芳年の血は、たった今斬りつけられ、鮮血が飛び散ったかのような生々しさとリアル感にあふれているのだ。
2人の肉筆画を展示するコーナーもまた、大きな見どころ。芳幾の肉筆画は明快で華やか。人物の表情が柔らかく親しみを感じさせ、《婦女風俗図》のように複数の人物を描いた作品も構図のバランスがよく、心地いい気持ちで鑑賞できる。
一方、芳年の肉筆画は硬質な印象。《鍾馗図》《猿田彦図》など、対象が宿すパワーが鑑賞者に向かって解き放たれているような力強い作品が並ぶ。「芳年はやっぱりすごい」と思わずうなってしまう。