創業以来169年にわたり「ものづくり」に最適化された企業文化や事業構造を築いてきたIHI。同社は今、生き残りを賭けたデータ活用への企業変革に取り組んでいる。多くの製造業が直面するアナログ思考や組織のサイロ構造、「モノ売り」至上主義の壁を取り払い、「コト売り」であるライフサイクルビジネスの拡大と新事業創造への挑戦の全貌を、常務執行役員高度情報マネジメント統括本部長の小宮義則氏が語る。
※本コンテンツは、2022年11月17日に開催されたJBpress主催/JDIR「特別企画 Drive the Innovationフォーラム ビジネスをスケールさせるハイパーオートメーションの可能性」の特別講演2「IHIにおけるDX推進」の内容を採録したものです。
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IHIが直面する「3つの壁」とビジネス環境の変化に向けた改革
創業は1853年(嘉永6年)、江戸幕府の命によりつくられた石川島造船所を起源とする株式会社IHI。同社は1960年(昭和35年)の播磨造船所との合併、さらに近年の造船の切り離しなどを経ながら、一貫して日本の重工業の一角を担ってきた。現在は造船から派生した「ものづくり技術」を中核として、「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの事業領域を展開している。
そうした同社が抱える事業構造の問題は、独立性の高いSBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)に由来する。これは、かつて中核事業だった造船が衰退する中で、個別の派生事業がそれぞれに育ってきたものだ。数年前までは40個あったSBUは、現在18個にまで整理されているが、同社常務執行役員高度情報マネジメント統括本部長の小宮義則氏は、これらを「DXの抵抗勢力であり、当社の闇の部分」と評する。
「SBUごとに業務プロセスの『方言』があり、事業に関連するシステムもバラバラでつなぐことが難しい。また専門性を重んじる人事政策の結果、営業、設計、調達、生産、建設、アフターサービスといった業務プロセスごとにサイロ化して、上流から下流まで一気通貫で思考できる人材、ユニットを超えて俯瞰できる人材が育ちにくい状況があります」
小宮氏はこうした状況を踏まえ、同社のDXを阻む「3つの壁」を挙げる。まずは、勘・経験・度胸(KKD)といった感覚を重んじる「アナログの壁」。「モノを売って儲ける」という従来の製造業の収益構造に固執し「コト売り」に移行できない「モノ売りの壁」。そしてSBUによる「サイロ構造の壁」だ。「この3つの壁を克服しなければ、到底DXは進められません」と小宮氏は語る。
さらに、激変する事業環境への対応にも迫られている。コロナ禍以降、リモートワークや在宅勤務が広がり、働き方や意思決定の仕組みを変える必要が出てきている。また、世界的なカーボンニュートラルの要請は決定的であり、航空機エンジンや原動機、ターボチャージャーなど燃焼系技術の多い同社は、ビジネスモデルを今後急速に変えなければならない。
こうした中、同社では2019年から実施してきた中期経営計画を大きく改訂し、「プロジェクトChange」として改革に取り組む。具体的には、財務戦略や事業体質の改善で成長軌道への回帰を目指すとともに、航空輸送システム、カーボンソリューション、保全・防災・減災の3つの事業を柱に、次世代に向けた成長事業の創出に力を注いでいる。これらは、冒頭に挙げた既存の4事業領域を横断するものだ。「上図左にあるような短期のDXと、右の成長事業創出という中長期のDXを同時並行で進めることが必要になってきているのです」と、小宮氏は強調する。