前編では、人事部門を取り巻く環境と、新しい働き方5つのポイントを述べた。後編では、今後の人事部門に求められる対応について考える。

人事部門の対応方向とは

 前編でお話しした職場マネジメントの対応方向を会社として実現するために、人事部門の対応方向を人事制度の観点から見ていく。

(1)採用・雇用
 リモートワークを推進することに伴い、就労の可能性が広がる兼業・副業人材やフリーランス、シニア層、主婦、外国人などの人材を確保するために、一人ひとりの事情を考慮した受け入れ体制の整備とテクノロジーを活用した効率的・効果的な採用アプローチが求められる。

(2)人事評価
 ジョブ型/メンバーシップ型を問わず、従業員一人ひとりの実績・成果および貢献行動をしっかりと評価できる評価ルールが求められる。また、チームでの仕事が増えれば、組織の目標を個人に割り振る目標管理よりも、チームで目標を持って評価する形態への対応も出てくる。さらに、従業員一人ひとりの「見える化」された仕事情報と、丁寧なケアから得られる本人情報があれば、評価はしても評価の納得性の観点から評価ランクへの当てはめをしない方法(ノーレイティング)も採れる。評価を処遇に反映せず、育成のみに活用する対応も考えられる。

(3)報酬
 評価を育成のみに活用するやり方とともに、従業員の業務委託化や兼業・副業化、社外のフリーランスや副業人材との契約が増えてくると、従業員および外部人材一人ひとりと報酬額を個別に決定、契約する対応が求められる。また、働き方のニューノーマル化における手当支給だけでなく、同一労働同一賃金への対応も考えると、諸手当全般の意義を見直し、福利厚生費を含めて人件費の再構成・再配分を検討する必要がある。

(4)人材育成
 今後ますます複雑化・高度化していく組織マネジメントを行うマネジャーへのケアは人事部門の大きな課題の一つになる。具体的な対応としては、ナレッジ提供や同じマネジャー同士が交流するコミュニティーの機会提供、個別カウンセリング・コーチングなどが考えられる。
 また、リモートワークによって従業員のコミュニケーションデータや活動データが大量に蓄積されるので、それらのデータを機械学習にかけて育成に活用し、“経験と勘”だけに頼らない育成を行っていくことも、従業員の状況が把握しづらい中では有効である。

(5)労働時間管理
 企業規模による差はあるものの、世の中では裁量労働制、フレックスタイム制といった柔軟な労働時間制度を利用する企業は少ない(厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」では、導入している企業割合は、フレックスタイム制で5.0%、専門業務型裁量労働制2.3%、企画業務型裁量労働制0.6%)。また、労働時間管理に縛られない高度プロフェッショナル制度の登録件数も低い(厚生労働省の発表では、2020年6月末時点での届け出状況は件数で16件、労働者数で436人)。制度適用の対象業務が限られていることもあるが、自社に合った制度を模索し、全社一律ではなく事業場別や部門別など個別の事情に配慮する対応が求められる。

今後の人事部門に求められる「One to One人事制度」

 前述の人事部門の対応方向で「一人ひとり」という言葉が何度も出てきた。そもそも人事部門の直接の「顧客」は従業員である。「顧客」のニーズを探り、そのニーズをどのように満たすかを考えることはマーケティングそのものである。現在、顧客ニーズは社外だけでなく、社内でも多様化してきている。この流れは今に始まったことではない。しかし、マーケティング発想を持って人事業務を行っていると自信を持って言える人事部門はそれほど多くないのではないか。

 ダイバーシティの時代では、シニア人材や外国人、女性など、それぞれの従業員が事情を抱えていることが多い。各従業員のニーズを人事部門が画一的に捉えるのではなく、個々の置かれている状況に応じて取り組んでいくことが重要になる。例えば、シニア人材だからといって体力面を配慮して簡単な仕事しか与えないのではなく、体力があり、正社員と同様に仕事をしたいシニア人材もおり、幅広い経験を活かすこともできる。

 つまり、本人の状況を一人ひとり捉える必要があり、それこそがOne to Oneマーケティング発想である。With/Afterコロナ時代では、ダイバーシティの対象に、「いわゆる正社員」が本格的に加わってくる。従業員一人ひとりのニーズを捉え、それらのニーズを満たすことがエンゲージメント向上や生産性向上につながり、人材確保と新しい価値創造へのアプローチになる。まさにOne to Oneマーケティング発想が今後の人事部門に求められる視点と考える。