創業100年を迎えた旭化成は、2021年に「Asahi Kasei DX Vision 2030」を策定し、人・データ・組織風土の変革を進めている。「歴史ある大きな会社ほど変革が進まない」といわれた同社を動かしたのは、過去のAI・IoTやBI導入の失敗事例から得た学びだった。アプローチを変容させながら、データドリブンな組織風土へと変革を導いたデジタル共創本部DX経営推進センター長の原田典明氏が、デジタル人材育成とデータ活用で加速する同社のDXの全貌を解説する。

※本コンテンツは、2022年9月28日(水)に開催されたJBpress主催「第14回 DXフォーラム」の特別講演1「デジタル人材育成とデータ活用で加速する企業風土改革」の内容を採録したものです。

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変革に向けた4つの重点テーマを掲げ、実現のための取り組みを推進

 2022年、100周年を迎えた旭化成は、マテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域でビジネスを展開し、小さな成功の積み重ねを通じて大きく成長してきた。現在、売上高は2兆円超、グローバルで従業員は約4万5000人に上り、1949年の上場開始以降一度も赤字に転落したことがない。その一方で「歴史ある大きな会社ほど変革が進まない」「過去の成功体験に縛られ、組織風土を変えにくい」と分析するのは、同社執行役員 兼 デジタル共創本部DX経営推進センター長の原田典明氏だ。

 そうした同社では、2022年度から新たな中期経営計画がスタートしている。変革に向けてグループ全体で取り組む4つの重点テーマとして、「グリーントランスフォーメーション」「デジタルトランスフォーメーション」「『人財』のトランスフォーメーション」、そして、これらを支える「無形資産の最大活用」を据えて、さまざまな施策に取り組んでいる。

 その具体的事例の1つ「IPランドスケープ」は、特許データによって各事業の特性を見える化し、経営戦略に活用する取り組みだ。特許情報のテキスト分析でキーワードの相関性を見いだし、パテントマップを作成する。他社やM&A先のパテントマップを見ながら事業展開を予測したり、自社とのシナジーを組んだりして、事業戦略を策定するのだ。

 もう1つの事例は、機械学習を中心とした新しい素材開発の技術「マテリアルズ・インフォマティクス」。例えば、合成ゴムにおいて、目標の特性に合った素材やつくり方を見つけるために、従来は専門家がさまざまな実験を繰り返す必要があった。しかし、この技術を使えば、過去の実験データから短期間で最適な条件を見つけ出せる。「コロナ禍のロックダウン時には、これを使って自宅からサイバー上で新規素材を発見するということも行われました。今後ますます広く活用されていくでしょう」と原田氏は語る。