■DX企画・推進人材のための「リスキリング実践講座」(1)はこちら

 筆者は現在、住友生命保険に勤務し、デジタルオフィサーという役職でデジタル戦略の立案、執行を担当している。また、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修を実施したり、社外企業数社の顧問としてDXの推進やDX人材育成のサポートをしたりしている。

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべき「企画・推進の仕事ができる力」の養成を目的としている。DXでは新しいことを学び、それを生かして仕事を行う必要があり、これまでの知識やスキルでは対応できない場合が多い。このため、「リスキリング」を行う必要があり、この連載ではそれが学べる。

アイデアを実ビジネスで使えるレベルにブラッシュアップする

 前回は、新しいビジネスアイデアを発想するための「3つのステップ」の2つ目のステップ「他との差別化ポイント・価格競争力を考える」を紹介し、この中で、新しいことを考えるために重要な「考えるヒント」について説明した。

 今回は、ステップ3の「ビジネスモデル設計をする」について紹介する。これはマインドセット研修・ワークショップ4「講義で学んだアイデアを出すプロセスを使用して新ビジネスを作ってみる」の最後のステップであり、この中で今回の連載記事での最後の「学びの仕掛け」を紹介する。

 このワークショップ4は、「DX初心者でも、1日で楽しくビジネスアイデアを発想できるようになる」を目指した。「DXを全く知らない人が1日でビジネスアイデアを語れる」が「セールスポイント」であるが、こう言うと、多くの企業の管理者が苦笑する。「いやあ、そんなわけないでしょう」という具合だ。

 マインドセット研修を始めたのは2019年の春で、最初は住友生命グループのシステムエンジニア向けに実施した。受講者はビジネスを知らない、興味を持たない人だった。筆者はビジネスが学べる工夫を研修に組み込んだものの、研修成果にはあまり自信がなかった。

 しかし、30人を超える受講者に1日の研修を終え、発表されたビジネスアイデアを評価したり、参加者全員の感想を聞き終えたりした後、筆者は確信した。システムエンジニアはビジネスが嫌いだったり、興味がなかったりする訳ではなかった。「学ぶ機会がなかった」だけだったのだ。

 システムエンジニアは、ビジネス要件を受けて、システム要件定義やシステム設計以降を担当するという常識に捕らわれていただけだ。「理解できていないことを自覚させ学習動機を高めれば誰でもビジネス発想力は向上する」ということを筆者は確信した。

 当然、教え方は工夫する必要がある。システムエンジニアは顧客に何かを売るといったビジネスの経験や経営の経験、それに関する知識は持っていない。しかし、システムに関する難しい技術や理論は定期的に身に付け、リスキリングしていく。

 それができるのは、試験制度(情報処理技術者試験、各種ベンダー技術認定試験)が充実していたり、社内・社外の研修カリキュラムが充実していたりするからだ。筆者も情報処理技術者試験を数多く保有し、試験対策本を執筆していたので、そのあたりの事情は良く理解している。

 一方で、「ビジネスに関する学習」には手軽な試験制度がない。中小企業診断士試験はあるものの、科目の多さや試験合格までにかかる時間、難易度など一般の人には敷居が高い。システムエンジニアや企業の社員が手軽に学べるビジネス発想力強化のカリキュラムがないのだ。

 まして、DXビジネスを過不足なく、適切な期間で学べるカリキュラムも、試験制度もない。これでは日本の人材がDXビジネスに興味を持つことも、スキルを習得することも難しい。だから筆者はそれを作りたいと思ったのだ。

 話をマインドセット研修に戻そう。これまで「ステップ1」「ステップ2」と説明してきたが、今回は最後の「ステップ3」である。ステップ1で「顧客がいいな」と思うものを、ステップ2で「価値を上げるために差別化して、コストを抑える」ようにした商品、サービスを「どの顧客層に、どの販路で、どう売るか」を検討してきた。

 この3つのステップに分けて考える方法は、個別ビジネスや経営の知識や経験を持たず、ビジネスを自由に発想することが難しいシステムエンジニアに適していた。物事を構造的に捉え、手順化されたものを学ぶことを得意とするシステムエンジニアに、良く分かる「マニュアル」として作用した。

 このため、初心者でも1日でそれなりのビジネス発想ができるようになるのだ。筆者はこれまで600人以上の研修経験でこれを実感した。そして、もっと良かったことに、このマニュアル効果はシステムエンジニアに限ったことではなかった。その後、自社グループや多くの他社のビジネス部門要員にも研修を行っているが、同様に効果的であったのだ。

 では、マインドセット研修の何が良かったのか。

 それは、これまで説明してきた「学びの仕掛け」の効果である。①「理解していない自覚」を持たせる、②「学習動機」を高める、③「すぐ調べる」癖をつける、④「多様な人材」で意見交換する、⑤「既にある知識・経験」を使う、⑥「質問を使って」理解を深める。直近3回で説明してきた⑦「テンプレート(3つのステップ)」を使う、前回説明した⑧「考えるヒント」を使う、である。

 そして、紹介したい「学びの仕掛け」にはもう一つある。最後の9つ目になるので、これを紹介しよう。