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 「リテールDX講座」では、リテールDXをビジネスモデル・イノベーションと捉え、ビジネスモデルを構成する6つのブロックについて、各回1ブロックを取り上げていきます。

 第5回は、収益フォーミュラ・イノベーションを取り上げます。

 ここでいう収益フォーミュラとは、小売企業が目標とする成果を達成する仕組みを指します。

 DXがもたらす収益フォーミュラには、組織ベース視点からの業務プロセス改善による生産性の向上と、顧客ベース視点からの顧客体験の革新による顧客成果の向上という2つの側面があります。ここでは、後者の顧客成果に焦点を当てて解説します。

 顧客ベースの成果指標は、従来のデータベース・マーケティング、ロイヤルティ・マーケティング、リレーションシップ・マーケティングなどで取り上げられてきましたが、DX環境下では①ソーシャル・メディアによるタッチポイントの劇的増加、②顧客の購買・利用行動の立体的把握、③デジタル・エコシステムの構築により、大きな進展を遂げることになります。

 具体的には、(1)特定の顧客内の自社製品・サービス、ブランドの購買・利用比率を示す顧客シェア、(2)特定の企業の製品・サービス、ブランドへの信頼、愛着、忠誠を表す顧客ロイヤルティ、(3)この顧客ロイヤルティを高めることで得られる顧客生涯価値(Lifetime Value=LTV)、(4)LTVに基づいて資産としての顧客に注目するカスタマー・エクイティ、(5)顧客単位で収益性を測定する顧客収益性、です。

 いずれの指標も、市場シェア、ブランド・ロイヤルティやブランド・エクイティ、製品収益性といったこれまでの製品・ブランドから、顧客に焦点が移っていることに注意してください。

 DXはこれまでのマクロの成果指標に加えて、顧客ベースのミクロの成果を追求することにより、収益を生み出す仕組みを革新するのです。

 第6回は、ビジネスモデル・イノベーション、そして最終回となる第7回は、この講座で取り上げてきたカスタマーリレーションシップ・イノベーション、カスタマーバリュー・イノベーション、業務プロセス・イノベーション、収益フォーミュラ・イノベーションがもたらす競争優位について解説していきます。

小樽商科大学 近藤公彦
神奈川大学  中見真也