複雑さと不確実性が増す現代において、法務機能を強化し、リーガル・リスク・マネジメントとガバナンス体制を確立することは、企業にとって喫緊の課題だ。しかし、多くの日本企業はこれを経営課題として認識すらできていない。法務部門はいかに、プレゼンスを上げ、法務機能強化によって企業価値を向上させていくべきか。そのための法務DXとはどのようなものか。豊富な企業経験を持つEY弁護士法人の2人が対談形式でお伝えする。

※本コンテンツは、2022年5月23日(月)に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回法務・知財DXフォーラム」の基調講演「企業価値向上のための法務機能強化戦略~“Do More With Less”にどう立ち向かうのか?~」の内容を採録したものです。

激動するビジネス環境の中で、日本企業の法務部門の課題は山積み状態

 EY弁護士法人はグローバルのM&A、ファイナンスといった法務業務の他にも、法務機能のコンサルティング、法務業務を請け負うリーガル・マネージド・サービスなどを提供している。EY弁護士法人シニアカウンセルで弁護士の室伏康志氏は、複数の大手国際法律事務所で活躍の後、クレディ・スイスにて日本のジェネラルカウンセル(GC)として、日本における統括責任者を長く務めた。一方、EY弁護士法人のディレクターで弁護士の前田絵理氏は、旭化成株式会社、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社などで、10年以上の企業内弁護士の経験がある。

 グローバルを舞台に豊富な経験と実績を持つ2人が、法務機能強化の重要性や、そこで法務DXがどのような役割を果たすかについて対談した。

前田 初めに、法務機能の定義を明確にします。本日お話しする法務機能とは、契約審査や訴訟だけでなく、知財部、リスク管理部、コンプライアンス部、輸出管理部などにわたる広い意味での法律関連業務と捉えています。

 それでは本日最初のテーマ、今なぜ、法務機能強化が必要なのかについてお話ししていきたいと思います。

室伏 まず、日本企業を取り巻く環境の変化がありますね。私が弁護士になった37年前は、日本の国際金融市場が始まり、バブルに向けて多くの日本企業が海外で大型買収をする時代でした。しかしバブル崩壊後、いわゆる失われた30年という低調な時代が続いており、さらに労働人口は危機的なレベルにまで減少していきます。

前田 VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)という変化の激しい時代ですが、特に技術革新によって、法務の世界でも新しいレギュレーションが出てきています。またESGや経済安全保障など、新しい分野への対応もあり、法務部門に期待される役割は増えています。

室伏 激動する環境の中で、日本企業の法務部門の課題は山積みといえます。数年前に経済産業省が「日本企業の法務機能の在り方研究会」という研究会の報告書を2度にわたって出しました。そこからいくつか課題を挙げると、まず、グローバルなリーガル・リスク・マネジメント体制ができていません。また、海外を含む大きな組織再編やM&A後のPMI(Post Merger Integration)対応、法務DXも大きな課題になっています。
※M&Aによる統合効果を確実にするための、統合プロセスとマネジメントのこと。