昨今のデジタル化により顧客の購買行動が激変し、従来の販売手法では効果を上げにくくなってきている。サクセスラボ代表取締役の弘子ラザヴィ氏は、これまでの販売モデルからデジタル社会に対応した「リテンションモデル」へのシフトが重要と示唆する。テスラやアマゾンといったデジタルネイティブな企業が、社会の変化を巧みに捉えて成功している秘訣は何か。ビジネスの潮目を変える「カスタマーサクセス」の本質について、ラザヴィ氏に聞いた。

※本コンテンツは、2022年3月16日に開催されたJBpress/JDIR主催「第4回 マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」の特別講演Ⅰ「デジタル時代に求められるカスタマーサクセスの本質とは」の内容を採録したものです。

「リテンションモデル」は「カスタマーをとりこにするモデル」

 デジタル社会に突入して消費者の購買行動が激変したといわれている。かつて企業の販売スタイルとしてオーソドックスであったモノの売り切りモデルだけでは、成功が難しくなっているのだ。そこで、顧客起点で企業経営を考えるサクセスラボ株式会社代表取締役の弘子ラザヴィ氏は、企業が独自の技術を駆使した高機能製品を製造し、売るというシンプルな販売スタイルから、新たなスタイルにシフトしなければならないとし、「リテンションモデル」を提唱する。

「私は、リテンションモデルのことを『カスタマーをとりこにするモデル』と言っています。リテンションモデルの定義は4つ。1つ目は『利用者が日常的、継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う』こと。2つ目は『利用者がいつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくて済む』こと。3つ目は『利用者がそれなしでは生活や仕事ができない。使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダクトが常に最新であり、最適化され続ける』こと。最後の4つ目は『利用者自身がうれしい成果を得られるならば、個人データをプロバイダーが取得することを許す』ことです」

 このリテンションモデルを採用している代表的サービスの1つが、音楽配信だ。例えばAmazon Music Primeの場合、スマートフォンなどのデバイスを使い、200万曲以上の楽曲の中から好きなものを好きなだけ、いつでもどこでも聴くことができるという「成果」に対して、利用者は「対価」である利用料を払っている。これは1つ目の定義に該当する。2つ目は月額400円という点。3つ目は常に最新の楽曲が追加、最新デバイスに対応するなどサービスがアップデートされている点、4つ目は利用者の好みの音楽をレコメンドする機能が定義に当てはまる。

 この4つの定義には、デジタル化によって変化したトレンドが影響しているという。1つ目の定義においては「値付けの標準が成果ベースへシフト」したことが挙げられる。2つ目の「止める権利」については、「経済取引の選択権が利用者へシフト」したことが影響している。3つ目は「競合のプロダクトの価値が『中毒になるレベル』へシフト」した結果、常により価値の高いものを提供することが標準といえる状況となった。そして4つ目は「競合のゴールがカスタマーのライフタイムバリューへシフト」したことが影響している。ラザヴィ氏は、リテンションモデルがトレンドに裏打ちされたものであると説明する。

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 さらにラザヴィ氏は、「重要なのは、4つのトレンドに相互作用が生まれてシステムシンキングのように、作用し合う『大波メカニズム』が生まれているということです(上図)。デジタル技術の革新が引き金となっていくつもの影響やトレンドが生まれ、それがさらに相互に影響し合っているため、どの要素も省略したり遅らせたりできないということを、意識すべきなのです」として、4つに定義されたリテンションモデルの柱が相互に関連し合っていることを強調する。