テクノロジーの進歩によりデジタルシフトが加速している中、どのように最先端技術を商品開発や新たなビジネスの構築に生かしたらよいのか。その取り組みはまず既成概念を取り払い、潜在ニーズに気付くことから始まる。ステークホルダーを巻き込み「気付く確率」を上げる具体的な事例とともに、企業が既存のビジネスモデルや組織を抜本的に変革するために必要なことを、東京大学大学院教授の森川博之氏が解説する。

※本コンテンツは、2021年11月15日に開催されたJBpress主催「第4回 ものづくりイノベーション」の特別講演Ⅰ「『共感×つなぐ×巻き込む』デジタル経営」の内容を採録したものです。

変革の種はリアル→デジタル→リアルのループの中に潜んでいる

 近年、多くの企業でIoT・5G・AIなどのテクノロジーが活用され始めている。これら最先端技術を商品開発や新たなビジネスの構築に生かすためには、リアルなものからデータを集めて分析し、またリアルの世界にフィードバックするという一連のループが必要となる。デジタル社会においては、このループの過程でいかに顧客ニーズのシグナルに気付けるか、という点が成否を分ける。

 森川氏は、顧客ニーズを捉えるためには、デジタルにマーケティングの考え方を取り入れていくことが重要だと話す。

「経営の神様とも呼ばれたピーター・ドラッカーは、『ビジネスの目的は顧客の創造である』と言いました。また、フィリップ・コトラーは『隠れたニーズを発見して具体的に定義すること』の重要性を説き、クレイトン・クリステンセンは『顧客の課題から新たなニーズ、イノベーションのシーズが見えてくる』としています。デジタルも同じように、顧客のニーズを発見することでこれまでには見えなかったチャンスに気付き、それをループの中に取り入れることが大切です」