星野リゾートは、観光業という非IT企業でありながらシステム開発組織を内製化し、情報システムグループが同社のDX推進をけん引している。コロナ禍中も組織は拡大し、世の変化に順応したスピ―ディーな施策を支えてきた。システム部隊の内製化と組織力強化を課題とする企業が多い中で、同社はどのような組織づくりを行ってきたのだろうか。そこには、経営陣を巻き込むきっかけや、思考力の源泉などの独自性があった。
“ダツコモ”を目指す星野リゾートの戦略
同社は2015年に本格的なIT戦略を策定し、取り組みを加速させた。しかし、その前から、「ダツコモ山ノボレ作戦」は既に開始されている。ダツコモとは、“脱コモディティ一”の略だ。同社では、観光産業のコモディティー化に危機感を抱き続けてきた。一昔前とは違い、新しくきれいなホテルや旅館が林立している。そんな業界内で、どのように競争力を維持していくかが、“ダツコモ”の言葉の中に込められているのだ。
この「ダツコモ山ノボレ作戦」はマイケル・ポーターの競争戦略論に基づいている。同社では、ダツコモの実現に向けて3つのステップを軸に取り組み続けている。まずは、「やるべきことをやって生産性のフロンティアを達成」し、次に「トレードオフを伴う独自の活動を選択」する。最後に「活動のフィット感を生み出す」のだ。この3つのステップを踏むことで他社にまねされにくい姿を作り上げていく。これが作戦の概要だ。久本氏は、この全体戦略に沿って、情報システムグループとしての5年間のIT戦略を立てた。
大切にしたのは、“変化に順応できる能力と仕組みの構築”だった。2014年ごろ、あらゆるビジネスがデジタル化していく将来像が提示され、デジタル・ディスラプターが業界の境界を越えて競争相手になると予見されていた。将来がどうなるか分からないからこそ、その変化を見据え、星野リゾートのシステム部門として変化に対応できる組織と人材、そして俊敏に対応しながら基盤を確立していくことは、あらゆる事業会社に要求される“生産性のフロンティア”であるとし、IT戦略を立てたのだ。何が起きても実行し続ける。安定イコール変化なのだと久本氏は考えた。
しかし、実はこのIT戦略は久本氏が“非公式”で取り組んだものだった。久本氏の“ひとり情シス”として始まったシステム部門だったが、事業の急成長に伴い、2013年に大きな失敗を経験していた。「信頼を失っていた情シスは、ビジネスの成長の足かせになっていた」と、久本氏は当時を振り返る。この停滞期を経験後、2022年3月の情報システムグループには、50名の同士がいる。信用失墜から組織の拡大へとつながった要因を久本氏は語る。