■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら!
この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われているが、本連載では、役に立つ9の「ビジネスの仕掛け」をテーマにビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説していく。
今回のテーマは〈9〉SPA(製造小売)である。今日、消費者のニーズは多様化し、購入チャネルも多様化している。ありきたりの商品を作っても、買い手がその商品に殺到することは期待できない。消費者は「自分が欲しい商品やサービスだけ」を買う。だから、SPAが注目される。
あなたはソロキャンプ(1人でのキャンプ)が好きだとする。場所はもちろん、道具にもこだわり、いつも雑誌やネットで良い商品を物色している。大好きなブランドのクッカー(調理器具)、軽く丈夫でデザインも良い食器類、1人用のコーヒーメーカーなど、こだわりの品には財布のひもも緩む。
しかし、最近は気持ちが盛り上がらなくなってきた。有名ブランドの商品は皆、似たようなものが多く、買いたいものがなくなってきたからだ。割引セールのメールが来ても心は動かない。既に持っているグッズに似たものを安く買ってもソロキャンプ仲間に自慢できないから、買う気になれない。
ある日、キャンプ用品のショップからメールが来た。このショップには最近、行っていない。多くのメーカーの普及品をとにかく安く売るだけの店で、初心者のうちは便利に使っていたが、経験を重ねるうちに普及品では満足しなくなったからだ。
メールには、「オリジナルブランドの販売を開始。ソロキャンプ用の極限まで小型、軽量、低燃費の各グッズをソロキャンパーと共同で開発」とある。あなたは心が躍る。そして、店に行って感激する。欲しかったものがここにある。この店で何もかも買いたい・・・。これが消費者から見たSPAの事例である。
SPAとは、一般に商品やサービスの企画、製造、販売を一貫して同じ企業が手掛ける事業形態で、消費者のニーズを反映した商品を、価格を抑えながら販売することを実現する「ビジネスの仕掛け」である。
以前は製造と販売が分離している「製販分離」による商業モデルが多かったが、近年の消費者行動の変化、消費者ニーズの多様化を受け、製販分離企業がSPA企業になるケースが増えている。これに関する事例を説明しよう。
会社を大きくしたいと思った「カジュアル衣料品店の2代目社長」は・・・
ある地方に大衆向け衣料品販売店があった。そこでは衣料品製造企業から商品を仕入れて売っていたが、そうした商売に満足しなかった2代目社長は会社を大きくしたいと思い、低価格戦略で全国展開を試みた。価格を抑えるため、人件費の低い国で大量生産して全国に展開し、一代で大きな衣料チェーンに成長させた。
しかし、その後、競合する同じビジネスモデルの企業同士で価格競争が激化し、さらに、同じような衣料品が百貨店やスーパーマーケットのオリジナルブランドとして世の中に現れた。そうした競合と差別化できず、顧客が増えなかったので、成長が鈍化していった。
2代目は、自社のお客や売り上げをもっと増やしたいと思い、考えたが、良いアイデアは思い付かなかった。そこで、店舗の販売員に考えてもらうことにした。相談したのは2人。1人は衣料品事業に詳しいベテランAさん、もう1人はアルバイトの大学生のBさんだった。
Aさんは聞かれるやいなや、『もっと売り上げが必要だ。そのためにはお客が必要である。そのために大量に出店し、多くの商品を安く売る必要がある。しばらくは苦しいかもしれないが、シェアをとるまで利益が取れないのは仕方がない』と言った。
一方、Bさんは少し考え、自分の着ている服を指さしながら『自分は山に登る。登山衣料品は暖かく、雨も通さない高機能だが、価格が高い。街でも寒かったり、雨が激しかったりするときがある。さほど高くない高機能衣料品が欲しい。それを作って売ったらよい』と言った。
2代目はBさんの話を聞いた後、一晩考え、翌日、2人の知人に電話した。1人は衣料品製造業の社長、もう1人は化学繊維メーカーの役員だった。以降、このカジュアル衣料チェーンは『街で着る高機能衣料をさほど高くない価格で売る』ビジネスモデルで世界企業に成長したという。
企業は自社で「作れるもの、売れるもの」を消費者に買わせようとするが、消費者は「自分が欲しいもの、自分が困っていること」を解消するものを買おうとする。従って、消費者が欲しいものを作って売ればよい。それがSPAの意義である。 では、どのように、「SPA(製造小売)」の成功ケースを作ればよいのだろうか。そのために筆者は「SPA(製造小売)のチェックリスト」を使っている。これを使うことで、成功する可能性が高いSPAビジネスの拡大を考えることができる。