経済産業省の「SDGs経営ガイド」によると、“SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」”であり、“SDGsは「未来志向」のツール”だとされている。しかし、SDGsをどう位置付け、どこから取り組めばよいのか見えてこない企業も多いのではないだろうか。創業120年を超え、日本の酒文化の発展を担ってきたサントリーのサステナビリティ経営からは、SDGsと企業経営の本質的な関係が見えてくる。
事業を支えてきた「水」と「ペットボトル」
1899年創業のサントリーの歴史は、創業者から受け継がれる「やってみなはれ」というチャレンジ精神に象徴される通り、挑戦の連続だった。洋酒になじみのない明治時代に「赤玉ポートワイン」を売り出し、日本で初めて国産ウイスキーの製造にも取り組んだ。
1963年にビール事業に進出し、1991年にはナチュラルミネラルウォーター「南アルプスの天然水(現・サントリー天然水)」の販売を開始。水道水ではなく、天然の水を買って飲むというスタイルを日本に定着させ、ミネラルウォーター市場で売上トップを走り続けている。
その一方で、同社は広告宣伝や文化的な活動でも名をはせてきた。世の中の常識に挑戦したビジネスを根付かせるために積極的な宣伝活動を行い、ポスターやテレビCMを通して新たな生活スタイルを提案し、宣伝部からは開高健や山口瞳といった有名作家が生まれている。
その同社では長年、「サステナビリティ経営」に取り組んできた。「企業理念をより一層追求することがサステナビリティ経営」と定義し、「人と自然と響きあう」という企業理念のもと、水やCO2、原料など7つのテーマでサステナビリティに取り組み、2050年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出の実質ゼロを目指している。
サントリーホールディングスの執行役員 サステナビリティ経営推進本部 副本部長の藤原正明氏は「どの企業にも事業のコアがあるはずです。それを持続可能にする取り組みこそが、サステナビリティ経営なのです」と語る。
同社の場合、それは「水」であり、同社の製品を届ける容器の「ペットボトル」である。この2つを徹底して持続可能にすることこそが、同社にとってのサステナビリティ経営であり、その取り組みを強化してきた。
健全な水の循環が持続可能性に直結
「水」は同社のビジネスを一貫して支えてきた。ウイスキーの語源は「生命の水」であり、お酒の味は水質に左右される。ウイスキーの蒸溜所建設、ビール事業に進出した時の工場建設は理想の水源探しから始まり、それらが今日の「サントリー天然水」の事業につながっていった。そうした背景から、同社は「ステークホルダーとの約束」に「水と生きる」を掲げている。
藤原氏は「水は、地域の気候や地理的条件に依存して循環するローカリティの高い資源です。工場で水を使い続けるためには、地域の健全な水循環の仕組みができている必要があります」と語る。
そのために同社が打ち出しているのが「水理念」である。研究所を設け、水の循環を科学的に解明し、Reduce/Reuse/Recycleの3R活動によって節水を進め、使用する水の水源を守り、地域社会と一緒に透明性を持って水の課題解決に取り組むというものだ。
水を使い、地域に循環させる水のバリューチェーンで同社が目指しているのは「ネットポジティブ」の実現であり、既に国内の工場でくみ上げる2倍以上の地下水を生み出す水源かん養活動を行っている。地下水のかん養量を増やすために森林を広げる「天然水の森」の活動に取り組み、その成果を科学的に分析してきた。
また、水の健全な循環を次世代に継承するための環境教育プログラム「水育」にも力を入れる。工場の近隣で「森と水の学校」という自然体験プログラムを実施するとともに、小学校への出張授業も行ってきた。2020年からは自宅からリモートで参加できるプログラムも開設している。これまでに累計20万人以上にこうした「水育」を提供している。
同社はグローバルでも同様の取り組みを展開している。国内の知見や資産をもとに、海外でも森林を広げる活動や水育を行うことで、地球規模での水の持続可能性を高めている。米国ケンタッキー州のアワードでは優秀ビジネス賞を受賞し、ベトナムの商工会議所からは持続可能なビジネストップ3に選ばれている。