製造業の現場ではさまざまな生産設備が稼動している。それらの設備が安定的かつ効率的に稼動していれば、何も困ることはないわけだが、往々にしてさまざまなトラブルが起こるわけだ。連載の第5回では、この設備にまつわる代表的なトラブルを把握し、そうしたことが未然に起こらないようにする対策について言及する。
設備トラブルの種類にはどのようなものがある?
設備トラブルの種類と一口に言っても実にさまざまなものが挙げられる。生産設備には多種多様なモノがあるため、当然ではあるが、加工コンディションによる要因、機械的な要因、人的な要因などで設備トラブルは起こってくる、ここではまず代表的なトラブルの例を挙げて、故障要因を紹介していく。
(1)生産設備のメカニカルエラー
生産設備でさまざまな加工を行うと、排出ごみなどが発生することが多々ある。例えば、切削加工の現場ではNC旋盤やマシニングセンタなどドリルによる削り込みで、多くの粉塵の切子(切りくず)が発生するため、それをスムーズに除去することが必要になる。それを放置しておくと、加工が進むにつれて周辺が切子だらけになり、刃具への噛み込みやメカニカルエラーに発展してしまう。特に長くつながってしまう切子への対策は頭を悩ませている現場も多い。
また、ワークの負荷を軽減しスムーズな加工を行うことに加え、放熱のためにオイルを注入しながら切削加工を行うことが多いが、その場合にも周辺にオイルがこびり付き、汚れの発生とドレンパンの詰まりなどによるメカニカルエラーが起こる場合もある。
生産設備はこうした少しのことで容易にエラーを生じる可能性があるので注意が必要なのだ。
(2)刃具・治具の損傷
切削加工の現場では刃具の折れがトラブルになることも多い。設定次第ではワークの負荷が大き過ぎたりすることもあれば、刃具の先端が摩耗によってなまってしまったり、対象となるワークの密度のばらつきなどで折れが発生してしまうことがある。
刃具が折れてしまうとジョブが止まるだけでなく、ベルトコンベアで流しながら穴開けをしている工程の場合、加工不良のまま次のワークを加工し、不良品がそのまま流れてしまうなどのトラブルが発生してしまう。
このような部品・補材の摩耗が原因で加工設備が止まってしまうことは後を絶たない。摩耗を把握できていたり、部品が定期的にメンテナンスされて交換されていれば発生しないはずのトラブルではあるが、対象ワークの簀の入り方(空気混入や密度のばらつきで素材の中に発生することがある小さな空間。刃先が安定しないため折れが生じやすい)や設定ミス(この点は後述する)などで、メンテナンスをしていてもトラブルが発生してしまうことも否めないのが実態だ。これが工程の中でのチョコ停の発生などにつながってしまっている。
(3)ヒューマンエラー
前述した現場のトラブルは、多くの場合、人的なミスであることも多い。加工設備のパラメータ設定ミスなどはその典型で、現場に慣れ始めた職人が加工のサイクルタイムを上げるために、加工速度を上げたり、負荷を高めたりするなどが原因の一つとして考えられる。これは刃具のメーカーが規定した負荷と寿命の保証カーブを超えた設定などによる人的な設定ミスであり、現場では刃具の寿命マージンなどを勘案した比較的よく行われる手法ではあるものの、ワークのタイプ次第では刃具の寿命などを考えると必ずしも推奨されるともいえない事情がある。
また、ワークの対象は治具によって位置決めがされることが多いが、加工設備によっては、人手によって急ぐがあまりワークをきちんと治具に納めておらず、位置の不良から加工不良が起こったり、刃具や部品の破損を起こしてしまうことも否めない。作業手順をきちんと確認し、材質の変化なども十分に評価・判断した上で人的なミスとならぬように治具に納めて加工をする必要があるわけだ。
(4)加工設備の故障
メカニカルエラーやヒューマンエラーに加え、そもそも加工設備の老朽化によるトラブルの多発もある。日本の製造業の場合、償却が終わった加工設備を延々と使っている企業が圧倒的多数であり、中小企業の設備投資が進みにくい最たる例となっている。老朽化した加工設備はさまざまな箇所の摩耗や汚れ、振動の発生、電源系のへたりなど多種多様なトラブル要因を抱えることにつながっている。
刃具・治具の損傷のところでも言及したように、設備を常日頃から定期的に保全することで、経年劣化によって発生しそうな設備トラブルを未然にチェックすることは可能なはずだ。チェックする箇所については長年の経験で手法なども十分に確立されているはずだ。要は、トラブル発生以前にメンテナンスできていれば良いだけの話である。
とはいえ、日々の生産業務の中では工程を頻繁に止めるわけにもいかないため、保全業務は生産計画との兼ね合いで決められることも多い。定期的に行うといっても優先度が下がりがちなわけだ。